160 / 240

第160話 ネット

「ペンキをかけた修行僧は、行動が外に向かったって事だ。内にため込まないで。  日常生活では、人は制限を設けて生きている。 ネットでは完全に無制限だ。匿名性を保ったまま、何を言っても何をやっても何の結果も伴わない。」 ロジが学者の顔をして話し始めた。 「そのため、反社会的な行動がオンラインコミュニティに大量に移行している。  ネットにアクセスしたとたんに現実社会はより懲罰的になる。  人種差別的で、女性差別的で、有害で辛辣になる。」 ハジメも頷いて 「日常の抑圧が、その匿名性に隠れて、ネット上での暴発を呼ぶんだ。」 と言った。小鉄も 「私たちゲイは格好の餌食なのよ。」 小鉄はたまにテレビに出たりするから、いつも同性愛者嫌いの標的にされてきた。  ドラァグクイーンはテレビでは客寄せパンダみたいなものだ。LGBTに理解を示すふりをしている某国営放送も、オカマ、を出せば視聴率が稼げるのだろう。出演依頼が来る。  小鉄は敢えてフルメイクで凄いドレスでテレビに出る。それは芸術的でさえある。小鉄の美学。 「だから匿名性の影に隠れて誹謗中傷をする輩(やから)より一足前に出たペンキ野郎は、ある意味行動力があると言えるだろう。  その行動力が危険なんだが。」 「なんか寂しそうだね、そのペンキさん。」 ミトが言った。ミトの中の天使、が顔を出した。 その場にいる人はみんな暖かい気持ちになる。 「僕、友達になりたいよ。 ひきこもっていた時、ロジに救われたんだから、僕も誰かの手を引っ張ってあげたい。」 「ミトとは違う精神構造のやつかもしれない。 ミトは危険だなぁ。」  タカヒロは心配そうだ。ミトよりは世間を知っている。

ともだちにシェアしよう!