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第212話 就職

 友也がサー・リチャーズ商会で働く事になった。最初は営業から、だそうだ。本当は研究開発とかがよかったらしい。畑違いでも研究室には馴染みがある。  仕事に慣れてから、具体的な結婚について考えよう、といずみちゃんと話し合った。 「就職おめでとう。」  ロジとミトがお祝いをしてくれた。 「結婚はまだ、先なんだろう? もう立派な社会人だね。」 ロジの言葉に 「先生のおかげです。 時期じゃないのに入社出来て嬉しいです。親も喜んでいます。」 「まぁ、小さい会社だから融通が利くんだよ。 やりたい仕事かどうか、様子を見て、だな。」 タカとハジメもいる。 「慣れて来たら、サーリチャーズ社でも珈琲豆を扱って欲しいな。」 珈琲好きのタカが言った。  友也は少し大人になったかもしれない。もうミトは憧れの存在というより、素敵な友達だ。 (自分はゲイ、という訳では無かったんだなぁ。)  いずみちゃんを愛してる。お互いの両親にも報告して、一緒に暮らす準備をしている。  心の奥の方にまだ火が燃え残っているけれど、 それは無理に消さなくてもいいのだと思う。  たくさんの人に迷惑をかけた。けれど友也はそんなことでしか、大人になれなかった。  人は何も失わないで大人になる事は出来ないのか?ロジが助けてくれたのは現実問題だけではない。心の問題だった。  ロジは何も説教じみた事は言わないが、友也はロジのしてくれた事を心に刻んだ。 (ロジャー先生は最高の教育者だな。)

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