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第177話 友也

 友也は暗い悦楽に浸っていた。人の秘密を暴くのも、尊では面白みがなかったが、SNSの中でミトを徹底的に叩く。背筋の凍るような冷たい悦楽。可愛さ余って憎さ百倍って事だ。  どこで狂ってしまったのか?  ネットには酷い悪口を書きまくっていた。 そのくせ、世界中の誰よりミトを愛している自負がある。 (ポスターに写ってた相手の男も弱そうだし、ミトを守ってやれないだろう。ミトが困った時、助けを求めて来るのはきっと僕だけだ。)  ミトを追いつめて困らせて、自分だけが助ける事が出来る、という屈折した妄想。  友也は何もない。格闘技が強い訳でもない。友達は少ない。特別秀でた才能も無い。自分に自信が持てない。  でも一度ネットの中に入れば、誰も友也を止められない。ネットの中では全能、だ。そんな錯覚をしていた。  夜一人ベッドに入るとミトを思う。時には狂おしいほどにミトを求める。でもいつもミトはポスターでしか無い。2次元から出て来てはくれない。心にいつもミトがいる。  満員電車の中で足を踏まれた。踏んだ男はギロリとこっちをにらみつける。踏んだのはそっちなのに、理不尽な痛み。新しいお気に入りのハイカットのバスケットシューズ。ポスターの中のミトとお揃いだ。それを踏んづけて行った男。 (あいつ、混雑している駅のホームで線路に突き落としたら楽しいかな。) でも思うだけで、実際にはやらない。 (そんな時、僕にはミトがいる、と思うと耐えられるんだ。ミト、ごめんね。ミトとお揃いのスニーカー汚しちゃった。あんな奴、手にかける価値もないよね。  僕にはミトがいるから、こんな世の中だけど生きていけるんだ。) ミトは尊い。

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