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お見合い と 尋ね人

ある日のまっさん 「正直(まさなお)、これを見て」  まっさんのお母さん梢さんが、晩御飯が終わった後にお茶を飲んでいるまっさんにちょっと小洒落た写真が入っているであろうものを差し出した。 「は?これってまさか…」  流石に気付くお見合い写真。  開けてみると、癖の一つもない真っ黒な髪で、清楚ないかにもお嬢様といった感じの品のいい女性が、ピンクのワンピースを着て微笑んでいた。 「急かすつもりはないんだよ。ただ鈴木さんがお前にどうかってね。25じゃ少し早い気もするけどちょっとした足掛かりにでもなればと思って見せたんだけどさ」  小5で父親が失踪して以来、蓄えとお母さんのパンクの修理と他所へのパートで頑張ってきたまっさん家。  奨学金で大学も工学部を出て幅広い自転車屋としてこの年まで頑張ってきている。バイクも扱えるので、割と店もうまくいっていた。。  お母さんもまだまだ年齢的には若いから、そんなに家のことが大変でもないのだが、そのまっさんの頑張りを見ていた鈴木さんがいいお嬢さんがいるのよ〜と持ってきてくれたらしい。 「◯◯株式会社の部長さんのお孫さんだそうだよ。22歳大学を出たて。この子にしたってはやいよねえ」  まっさんのお母さんもお茶を飲みながら、相手の子のことまで心配をしている。 「どうする?会うも会わないもお前次第だよ。断ったって今なら相手も傷つかないし」  まっさんが思い描いている奥さん像は、一緒に自転車屋さんをやってくれる人。母である梢さんのように、自転車の空気漏れくらいは水に手を突っ込んで探して欲しいし、直すくらいできる人を望んでいる。 「企業の部長さんの孫じゃあ…随分可愛がられて育ったんだろうしなぁ…」  とあまり乗り気ではない。  しかし、なんというか自分に女っ気がないと言うのも事実で… 「お前!女ってだけで見合い受けんのだけはやめなよ」  うへっ見透かされた。 「母さんはお前が幸せなら相手が男だって外国の人だっていいんだよ。お前が幸せになる道を選びなよ」  男って…苦笑をして仲間の2人を思い浮かべた。  まあ、あいつら幸せそうだよな…  てつやん家(ち)の事情もよくわかっているまっさんは、今てつやがどんな形でも幸せならいいなと思っている。自分もそうだが…。 「一回会ってみようかな…もしかしたら結構男前な女性かもしれないし」 「無理はしないでよ?」 「母さんだって、孫の顔早く見たいっていってたじゃんか」  気の早い話だが、まあそんな気持ちもあってまっさんはお見合いというものをすることとなった。  ある日の銀次  相変わらず銀次の家のパン屋「ふらわあ」は人気のお店で、毎日ありがたくも大勢のお客さんが来てくれている。  両親と共にお店を経営しているが、父親は少し年齢が高く、パンを作ってはいるものの経営が面倒というので銀次が20歳になった時に家の全権を銀次に譲っていた。  銀次には弟がいるが、家族会議の結果こんな仕事的に大変な店を継いでくれるのはありがたいと、銀次が家を継ぐことには賛成をしてくれ、両親から幾らかの金額が弟に支払われ、もしもの時にも遺産相続で争わない書類も交わしていた。  そんなとある日に、見慣れない女性のお客さんが来た。  街のパン屋さんなどは、割と顔馴染みや何度か見かけた人だなと言うのがわかる顔ぶれが多いが、たまにいる見たこともない女性が今日も現れた。  小花が散った淡いブルーのワンピースを着て、白いハンドバッグ、白のパンプス、髪は顎のラインで切り揃えられたボブヘアーだ。  割と目立つ。  銀次も裏から店をたまたま見た時に、見たことないなと思ってはいたが、その子がお会計時に 「あの…銀次さんはいらっしゃいますか」  とレジのお姉さんに尋ねたので、お姉さんは裏の駐車場に案内し、銀次をそこに呼ぶと伝えてお会計を済ませた。 「ああん?俺のこと呼んでる?さっきのおかっぱの子?俺知らない子だけど」  レジのお姉さんはお店でパン出しをしている子に事情を話し、急いで駐車場へ行って欲しいと言っといてと話しただけで、その子は何もわかってはいないのだ。 「銀次、今どきは女性だっておっかねえぞ?何やらかした?」  父親が厳しめに言ってくるが、本当に身に覚えもなければ女性と話したことなどここ数年ないんじゃないかな?くらいである。  まあちょっと怖いけど、さっきの姿見る限りはまあ…なんかあっても防げるだろうと帽子を外し裏へと向かった。  銀次が出てゆくと、道路と駐車場の境目でその子は立っており、銀次を見るなりにっこりと笑った。  やっぱり見覚えがない…  そう思って近づくと 「いきなり来ちゃってごめんね。ストーカーじゃないよ」  と話すその声。 「おまっ…貴女人形ちゃん…?ロードの?」  女の子はこくんとうなづいた。 「園田玲香と申します」  丁寧に腰から折った礼をして、玲香ちゃんはまた微笑んだ。  銀次は言葉もない。 「え…呪い…?」 「失礼ね、そんなんじゃないわ。第一私は人を呪えないわよ」  ちょっと銀次の反応に笑ってしまっていたが、ちょっと怒ってもいるような… 「なんでここが…?」 「貴方たちはお友達が多いから、色々尋ねていたらある人が連絡つけてくれるっていって…」  確かに2週間前に、ロードで知り合った人からまずまっさんに『銀次とLINEで繋がりたいって女の子いるんだけど』と連絡があった。  しかし銀次はそれを断っていた。  まあ見ず知らずの人とは、その場でOKも出せるわけもない。 「断ったでしょ」  相変わらず目だけはあの人形なのだ。 「それは仕方ないでしょ。俺も貴女の事何も知らないんだし、名前も聞かない人に教えられないよ。で、その目やめて」  苦笑しながらそれだけ言った。玲香は 「それもそうだったわ…それもごめんなさい。それでね、その人にパン屋さんだって教わって、県まで聞いてからいっぱい調べたの。パン屋さん、ロードローラーとかって。時間かかったけどここが引っかかったから…来ちゃった。ストーカーじゃほんとにないよ」  うん、それはわかった。けど 「なんで?」 「気になったから…」  頬が染まる。 「え、ええと?」 「でも!」 「は、はい!」 「せめてLINEとかメルアドとか…それだけ聞きたくて…」  なんか健気になってきてしまう。 「もしかして、それだけのためにここまできたの?って言うか、どこから来たのよ」 「鳴子…」 「鳴子って…ああ温泉あるところか」   それで、こけしみたいな日本人形の格好だったのかとなんだか納得はできたが、それにしても新幹線があるにしてもここは東京ではないから、ちょっと大変だったんじゃあ。 「結構遠いじゃんか」  自分に会いに鳴子から来てくれたという玲香ちゃん。銀次の心もほっこりしてくる。 「じゃあLINEでも交換するか」 「うん」  玲香は喜んでスマホを取り出し、お互いに交換しあった。 「これからどうすんの?」 「帰るけど」 「飯でもいく?」 「でもお仕事…」 「俺に女の子が尋ねてきたって言えば、親は喜んで抜けさせてくれるさ」  と笑っていると、 「じゃあ、行く」  と玲香も笑った。 「あまり遅くならないようにランチだけど、いいよね」 「うん。いいよ。嬉しい」 「じゃあ悪いけど、もう少し…ああでもあれか。じゃあちょっと来て」  と駐車場の奥へと案内し、そこに停めてある銀次の車エクストレイルをあけ、 「中で待ってて」  と手を貸して乗り込ませて 「すぐ来るから」 と店に一旦戻って行った。 「銀次の車…」  玲香はキョロキョロして車の中を見回す。意外にも綺麗にしていて、後にはクッションなんかも置かれている。  待つこと7分ほど。結構早かった 「遅くなってごめんな、店の女の子にいいお店聞いてきたからそこに行こう」 「大して待ってない、急にごめんね」 「まあいいって。じゃあ行こうか」  銀次も玲香の格好を鑑みて、シャツにジャケットを羽織ってきた。  Tシャツにデニムではあまりに失礼かなと…  銀次は新市街にある、とあるレストランを店の女の子に教えてもらっていた。 「銀次さん、そんなに安くはないですよ?でもせっかく来てくれたんだから、そのくらい男気見せましょう!」  拳を握られ女の子に喝を入れられてきた銀次は、その場でランチの予約をとり、店へと向かった。  そんなに大きくはないが、煉瓦造りの建物で、ちょっとフレンチっぽかったがカジュアルだとも聞いていたので、玲香を先に進めて店へと入っていった。 「あ…」  と玲香が声をあげて止まった。 「どしたの?」  玲香の目線を追って先を見ると、そこには女性と食事をしているまっさんが… 「あ…予約した花江ですが、あの人と離れた席にして下さい…」  と流石にお互い気まずいだろうと、お店の人に無理を言って少し離れた場所へ席を設けてもらった。  料理はシェフのお任せコースにして、取り敢えずはロードの話や鳴子の話などを聞いて料理を待った。  人形みたいだけど、意外とよく喋ってくれて、話も面白いし、なにより食事のマナーも綺麗で、銀次も割と好印象を持ち始める。  食事も終わり午後3時頃。今から帰れば19時頃には家に着くと言うので、大宮まで送ってやることにした。東北新幹線の始発である。  駅前で、ちょいと路駐して入り口まで送りながら 「中まで送らなくてほんといいの?」 「うん、大丈夫。今日は急に来たのに食事や送ってくれたり本当にありがとう」  ほんと可愛いよな…とちょいと見惚れてしまう。 「いやいや気にしないで。今度は温泉浸かりに行くから。もしかしたらみんなとだけど」  ちょっと笑いながら言うと、 「ぜひ来てね。でも銀次さんは銀次さんの車持ってきてね…」  だ…抱きしめていいのかな…なんか可愛いぞ?でも一回軽くだけど抱きしめてるからな…良いのかな… 「うん、俺の車で行くから、案内して」  とまた軽くだけど抱きしめてみた。玲香が銀次のジャケットの裾をきゅっと掴んで、そして離した。 「じゃあ、またね」  にこっと笑って玲香は階段へ向かって歩き出す。 「また来いよ!俺も行くけど!」  玲香は振り向いて 「絶対に来るから」  階段を3段昇ったところで手を振った。  銀次も手を振って、玲香が見えなくなるまで階段を見送っていた。(あれ…? これBL話じゃあ…)  

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