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4人のある日
4人のある日
日曜の午後1時
激しく息を吐いて、京介はてつやの隣に寝転んだ。
てつやも上を向いて息を整える。
「土日に貯めておけって…言ったけど…はぁ…金曜の夜から何回目だっけ…」
平日に来た時に京介はやはりてつや を求めたが、てつやはロード前の京介が無理をして酷い有様だったのが目に焼き付いていて、たまに早く帰れた日くらいは早く寝ろ、と拒んでいたのだ。
ー土日に貯めておけーと言って。
それを金曜の夜からずっと解放され続けている。
「2回ずつ、金曜夜、土曜午前中、土曜午後、土曜夜、そんで今一回だからもう一回やるぜ」
ああもう、すごい体力
「そりゃあ金◯空っぽって言われるよ」
てつやはその言葉がいたく気に入ったらしく、あの日から結構言ってくる。平日夜の寝物語に、その日起こったことを話していた京介はちょっと失敗、と思っているかも。
「あ、そうだ!良かったー思い出して」
「なによ」
ベッドがたわんで、京介がかけてあるスーツの内ポケットから一つの箱を持ってくる。
包まれていないが革でコーティングされた小箱だ。それをてつやへ渡した。
「なにこれ?」
箱を持って京介の顔を見るが
「開けてみ?」
と笑って促してきた。
なんだ?と思って開けてみると、金の鎖
「なに…ブレスレット?」
取ってみると、下品なほど太くはなく平らに抑えられた複雑に繋がれた鎖。いう通りブレスレットだ。
「これって…」
「なんか形が欲しくてさ。だけど指輪ってのもなんかちょっとアレかなと思って、これにしてみた」
そう言いながら京介は自分の左腕を見せた。
「え、ずっとしてた?気づかなかった」
そのくらい自然な感じのデザインだ。
「これって…給料3ヶ月分?」
笑っててつやがつけようとしているが、なかなかキャッチに入らない。それを手伝ってやりながら
「と言いたいところだけど、それだと相当高級品になるぜ」
ほい、と留めてあげて腕を解放する。
「お前の給料そんな?」
「自営やお前みたいなわけにはいかないけど、サラリーマンにしたら月収低くはないかもな。馬鹿みたいに高くはないけど」
まあざっと計算しても年収は一千万は超えている。
「へえ…でもこれいいな。俺こういうのつけるの初めてだけど、つけていられそう」
「ちゃんとイニシャルも彫ってあるぜ」
一部金のプレートが繋がっていて、そこの裏にT to K と K to Tと彫ってあるのだ。
ちゃんとした結婚指輪みたいだ。
「普通に俺のイニシャルになってるけど」
加瀬てつや→K to T
「そうなんだよな ちょっと悩んだけどまあ仕方ねえなと」
そうするしかないからね。
「本当に気に入ったよ、ありがとう」
てつやが両手を伸ばして、おいで、なのか抱いて欲しいのかわからなかったけどどっちにしろ抱きしめることに変わりなさそうなので、京介はてつやの頭を抱えるように抱きついて行った。
最初から舌を絡めるキスをして、全開で2回戦は始まる。
京介の舌が首筋からだんだん降りてゆき、胸の色づきを口に含み舌で転がして今日は執拗に味わい始めた。
「んっ…なんで…そこ…」
最近気付いたてつやの割と弱い部分その3。舌で転がした後は、前歯で甘噛みしてやると、より声が出て可愛い。
「ぁ…やだ…って…んっ…」
京介の頭へ手を当てるがそれはそこからどかす行為ではなく、やり場のない手を京介の髪に縋り快感を貪っている。
少し強く噛むと、手にしているてつやの中心がピクッと反応し、もう先端から液体が流れ出てたまらなそうだ。
「痛いの好きそうなんだよなぁ…」
不穏な呟きを聞いて、
「そんなこと…ねえから痛くすんなよ…」
まあ嫌がることはしないけど…一回くらいやってみたい気はする。
「てつや、後向いて」
あまりやらない体位に、めずらし…といいながら言われた通りに京介へ腰を向けて枕に頭をつけた。
京介はこの後ろ姿を見るのが結構好きで、この姿になったてつやは筋肉の流れとかが綺麗なのだ。
腰に手を添えて、半分ほど身を入れてゆく。
ダイレクトに挿入されて、てつやは枕の端を握りしめた。
「ぅっ……ん」
半分だけ入れたまま、てつやの前へ手を伸ばし擦り上げる。
挿入感が和らいで、てつやの口から漏れる声も少しゆったりとしてきた、そこで一気に根本まで挿入して行く。
いつものことなのに、毎回これに驚いて体を硬くしてしまう。
「力抜けよ…締まりすぎてイっちまうから」
余裕で笑う京介は、そのままてつやを揺らし始めた。
「あぁ…いい…」
つい声が出てしまうほどてつやがいいのか、気持ちが入っているからなのかは京介にもわからないが、てつやは本当に気持ちのいいものを持っている。
「はぁ…は…ぁ…」
揺らされるてつやも、逆に京介のが自分をあげてくれることに満足感を持っていて、まあ…いい相性ということなのだろう。
そしてその直後、思い立った京介はてつやのお尻の丸い部分の少し脇辺りをパシンッと叩いてみた。
「いってぇ!痛えよ…やめろっていった…」
痛みはそうだろうけれど、その後からくるジンジンとした感覚が抽送を繰り返す京介の物と相まって、今までにない不思議な感覚をてつやに与えていた。
叩いた瞬間に挿入部が締まり、手にしているてつや自身もピクッと反応したのをみて、京介はもう一回叩いてみる。
「いってぇ…って…」
今度は明らかに自分が京介を締め上げたのを感じて、てつやはちょっとやばさを感じた。
これをいいと言ってしまうと、違う方向へ向かってしまう恐怖感。それは絶対に嫌だった。気持ちいいのは確かなんだけれど。
「ほんとに…やめ…」
揺らされながらの言葉は途切れてしまうけど、京介はーわかったーと言っててつやを上に向くようにと一旦抜いた。
「叩くために後ろ向きにしたな…」
ジト目で見られて
「ごめん、悪かった。もうしない」
片手をあげて忠誠のポーズ
「今度やったら1ヶ月禁止だからな…」
はいーと返事はするものの、てつやが我慢できるのかな…とちょっと思ってしまう。
改めて仰向けになったてつやの両足を抱え込み、まずはてつや自身を擦り上げる。だいぶ来ていて、今のインターバルで少し和らぐかと思っていたが思っていたほどではなく、やはり少し痛いのをてつやは好きなんだなと密かに理解をした。
「んっんぅっ」
擦りあげられて、腰が緩やかに動きだす。
その間に、京介はてつやの中へと身を進めていった。てつやの脇に手をついて片方の手でてつやを刺激する。
「はっはあぁ…あっぁ…」
てつやの息も早くなり、握っているものはもう張り詰めていた。
京介はてつやに重なり
「いいぞ…イケ…先にイけ…」
耳元で囁いて、手の動きを早める。
「一緒…がいい……なぁ…一緒に…」
ああ…一緒にイけなくはないのだけれど、今のこのてつやの姿が京介には愛おしくてもう少し長くみていたい気もしてきた。
どうしようもない感情が湧き上がり、こう言う関係になったからと消えていた黒い独占欲が蘇ってくる。
これを言ったら縛ってしまうかもしれないという言葉を今は伝えたくて仕方がない。受け入れて貰えなくたっていいから…返答はてつやがその気持ちに応える気になったらでいいからと…京介はある言葉を用意した。
指を蠢かせ、てつやのものをその溢れ出ている頂点を指で撫でて、そのまま激しく擦り上げる。
「あっああっだめ…だ、きょうすけ…そんなにっおれ…イ…あっ」
てつやの腰の動きも激しくなり、京介は身を折っててつやの耳元へ唇を持って行き
「いいよ…イけよ……」
そう囁いて指の動きを1段と速め、自分までいきそうなのを堪えててつやを突き上げる」
「っ…く…あぁ…ああ…んっぁ…イ…イク…あっあぁ」
てつやが動きを止め、京介の手の中に放出しようとしたその直前に、耳元である言葉を言われてコンマ何秒かてつやは戸惑い、そしてその言葉になのか耳元で囁かれたからなのか、明らかに自分のタイミングでは無いところで強い射精感にみまわれ
「はぁっ…くっ」
イかされてしまった。
京介は起き上がって、指についた部分を舌で舐め取っている。
「いま…おまえ…」
てつやの顔が高揚している。珍しい顔だ。
「いい顔してる…」
頬を撫でて、優しく微笑む。
「今…お前が言った…」
そこまで言って唇を塞がれる。
「んんっ…」
そうキスをしながら
「俺には…んぅ…言わせてくれないのか…?」
京介が言った言葉は、てつやの中にほんとうに弾けるような感覚を与え、その言葉でイってしまったと言ってもいいほどだ。
「ほんとうに…そう思った時に、言ってくれたらいいんだ…俺は今言いたかっただけだから…」
京介はてつやの前髪を後ろに撫でて、再び抱きしめると
「俺もイっていいかな…」
と腰を揺らした。京介ももう寸前まではち切れそうだ。
てつやは京介の首に腕を回し、ぎゅっと抱きしめる。
足を絡め、京介が動きやすいように腰を浮かせて
「イけよ…俺の中でイって…」
耳元でそう囁かれて京介も無事なわけがない。
荒く息を吐き、てつやの名前を呼んできつく抱きしめる。
一度中で出されているそこは、音を立てて抽送され、起き上がってイきたかった京介だがてつやが腕を離さなかった。
てつやの頭を抱えお互いの唇が耳元にある。息遣いや吐息でどんどん追い立てられ、京介も限界だ
「はっはぁっ…イく…てつや…おれもイ…」
腰の動きが速まり、いまイきそうなその瞬間…吐息混じりの声が京介の耳元に聞こえてきた
「あいしてる…」
本当に微かな…吐息のような言葉だが、確かにそう言っててつやはもっと強く抱きしめその間に京介はてつやの中に放って行った。
抱きしめあって、時間にしたら十数秒なのだろうが2人には随分長くそうしている感じがした…、
腕を緩めててつやを見ると、泣いているわけではなさそうなのに瞳が潤んでいて、不思議な目で京介を見ている。
「てつや…?」
「京介…俺…」
てつやも腕を緩めて腕で自分の目を隠してしまった。
「俺な…」
「うん」
「お前に…落ちた…」
隠している腕を解いて顔を見ると、目の周りが紅く染まっていて、泣いているというよりは高揚している顔。
「もうとっくに落ちてると思ってた…けど…そうじゃなかった…今日落ちたわ…完落ちだよ…」
最初に京介がその言葉を囁いた。
その時に…その瞬間にてつやは京介へと落ちたのだ。捕まったことを覚悟した。 そして、自分から京介に『あいしてる』と告げたのは、きっと京介が未だに自分に遠慮をして返答はいつでも…と言ったのを理解し、その遠慮はもう払拭したかったから。
「全身が…お前でいっぱいなんだよ」
未だに潤んだ目つきで真っ直ぐに見られて京介もたまらなくなり、てつやを抱きしめた。
そしてもう一度あの言葉を告げた
「愛してる」
てつやは頷き
「俺は…『本当に』お前のになったよ」
抱きしめられた耳元でてつやは伝え、京介も
「俺も、『本当に』お前のだ…」
と応える。
「離さないからな…」
「望むところだ…」
そう言い合って顔を見合わせ、唇を寄せていった。
『なんだか結婚式みたいだ…』
とてつやは内心思っていた。気持ちが緩んでいく。なんだろう…わからない高揚感に包まれて、キスをしている。
そんな時スマホが鳴った。
見てみるとまっさんだった。
てつやはなんの気なしに
「はい、おれ」
と出たのだが、なんだか向こうで
『え?はあ?あ、ああ、またあとでかけなおすわ、ご、ごめんな』
と大慌てをして、電話を切ってしまった。
「は?なんなんだ?」
ーこっちが『はあ?』だぜーと言いながら電話を置き、ゆるゆるとベッドの上に座った。
電話で中断されてしまったが、最後にもう一度唇を吸うようなキスをして、2人は一旦落ち着いた。
「俺やっぱさ思ったんだけど」
「ん?」
肘を枕にしててつやを見ている京介は、今度は何を言い出すのかなと面白そうにしている。
「指輪、大事だな」
「なんだ急に」
ブレスレットを撫でながら、
「これもさ、いいんだよ。俺は気に入ったし。でもこれって俺とお前が一緒にいないと意味がないんだよな。でも指輪は、お互い1人でいても誰もが『ああ』って思うだろ?」
まあそうだけど…なんか言いたいことがわかってきた…てつや(こいつ)ってこんな可愛い性格だったっけ?と京介は顔が綻んでしまう。
「俺が会社でつけてれば、この間みたいなめんどくさいことが起こらないってことか」
「そうそう。めんどくさいっていうか、気に入らねえことな」
とうとう京介は吹き出してしまった。
今年のロードの時もそうだったが、一方的に感情をむき出しにしてたのは京介の方が多かったのに、やっとてつやが本気を出してくれた。
「なんだよ!俺は真剣に考えてる!」
まあまあこっちに来なさいよ、と腕を引っ張って隣に寝そべらせる。
「いいぜ、そうしよう。お前が気に入らないことは無いのがいいし」
てつやはその場でうつ伏せになり、スマホで色々検索を始めた。
「何を探してんだ?」
京介が覗き込むと、ペアリングを検索している。
ああ、もう…この直情的な性格好きだー。とてつやに抱きつく京介。
「おい、邪魔。こうなったらいいものを準備するわ。あ、俺が買うからな」
絡んでくる京介を腕一本で避けて、真剣にスマホに見入る…がその瞬間に急に鳴ったスマホに一瞬驚く
「ああびっくりした。あ、銀次だ。はい、俺」
『あれ、普通じゃん』
「は?俺はいつでも普通だが?」
『さっきまっさんから電話なかった?』
「あったあった、あいつ訳わかんねえんだよ。急にかけてきて急になんか慌てて切っちゃってさ」
電話の向こうで銀次がゲラゲラ笑っている。
「なんなん?」
『お前さ、さっきまっさんが電話した時何してた?』
この言葉さえ笑いながらで、言いたくなければ言わなくていいけど、と付け加えてきた。
「さっき?何してた…っけ?」
京介も考えてみている…そして『ああ…』と思い出してニヤニヤし始めた。
てつやも、あ…と思い起こして
「いや、別に?なんも…」
と言ってみるが、そばで京介が『ちょー直後』と呟いて、電話口の銀次はますます大笑いをした。
「なんなんよ!」
流石にてつやもその笑いが気になる。
『いや…まっさんがさ…電話に出たてつや(お前)の声がくっくっくっエロくて…ちんこ反応したって』
そう言って大爆笑を始めてしまった。
てつやはスマホを耳から離してじーっと見つめてしまう。どういう反応したらいいん?
こちらでも京介が、さっき追いやられたせいで大笑いした瞬間にベッドから落ちていたが、それでも笑い続けていた。
「なんだよお前ら、笑うとこか?」
まっさんの気持ちを考えれば…大いに笑うところかも。
「俺は普通にしか喋ってねえよ!絶対だ。まっさん(あの野郎)はあとで締めよ。でなんだよ。用があって電話してきたんじゃねえの?」
もうお腹痛くて仕方がない銀次は、ああ、そうそう、あのな…と言いながらも笑っていて話にならない」
「切るぞ…」
「ああごめんごめん…クックッ…今夜さ、相談があるんで行っても大丈夫か?ってことなんだけどさ』
「珍しいな、銀次が相談事とか。いつも俺なのに」
自虐行為はお得意なてっちゃん。
『まっさんもだよ。相談っていうか意見が聞きたいんだよな』
「なんだかよくわかんねえけど、大丈夫だよ、来いよ」
人が来そうなので、京介はその間にシャワーへ向かっていた。
「じゃあ18時頃行くわ。飯とかいるか?」
その時間ならやはりご飯は必須だな…
「ツヤツヤ亭のミックスフライ弁当がいいな、京介…は勝手に風呂いったから唐揚げでいいよ」
『わかった、じゃその他諸々買ってくわ。じゃ』
「待ってる」
電話を切って、てつやも浴室へ向かう。
「2人は狭いって〜」
そんなこと言いながらも、ふたりで入ってしまう。今は16時半。時間はあまりない。
2人がやってきて、まずまっさんが言った言葉は
「あ〜あのな。お前らの性生活に口を出す訳じゃない。そう言うわけじゃあないんだけどな??休日の真っ昼間はやめないか?」
銀次の話を思い出して、銀次と京介は今にも吹き出しそう。てつやは複雑な顔
「俺らが電話するって大体その時間だからさ。な?ちょっと勘弁して。お前らも笑ってんじゃねえよ」
「お前反応しちゃったんだって?」
京介が笑いを堪えて聞いてくる
「ちょっとだよ!ほんのちょっとピクッと…何言わせんだよ!お前らがやってなきゃいいことなんだ!」
責任転嫁かよ〜
「まあ仕方ねえよそれは。てつやのあの声は俺がイっちゃうくら…」
京介がボックスティッシュの箱で頭を叩かれて、叩いたてつやはいい加減にこの話題やめろとちょいご立腹
まあ確かに、この部屋にいるといっつもやってる気はしていた。
「これからはジムでもいくわ」
建設的な意見がてつやから出たところで。本日の話題
「へ?銀次に彼女?」
買ってきてもらった弁当を食べながら、銀次が話し出した話は皆の興味をそそった。
「いや〜まだ決定じゃないけどさぁ、どうなんかなって…とこ…かなぁ」
ちょっと照れながら、ニヤニヤする銀次を見るのは久しぶりだ。
「一体いつどこで…そんな暇あったか?」
確かに大体店に追われてるし、店が休みの日もロード後なんだかんだで仲間内で色々あったから一体いつと思うのも不思議ではない。
「お前らも知ってるやつよ?」
え〜?と3人も考え込む。
「俺らが知ってる…ってロード関係しか…」
その声に、うんうんと頷く銀次。
「は?ロードの関係者?」
ますますわからないが、2人の頭にピカン!と1人の人物が思い当たった。
「あ〜〜あの人か」
まっさんが言うと、てつやも
「俺もあの人だと思う、いいんじゃねえ?よくみると美人だし」
「ああ、あの人か。確かにな、芯も強そうだし、銀次に向いてるよ」
と京介が言うと
「いやあ〜〜そうかなぁ〜〜。俺も可愛いと思うけどさあ」
デッレデレの銀次。
「おお〜あの人を可愛いという。お前中々やるなあ」
まっさんに腕を肘で突かれて、ますます銀次は『やめろよぉ〜〜』とデレデレ。
「どこで会ったんだよ〜」
「なんかな?ほら、まっさんさ、菊池さんから連絡あったじゃんか。俺に連絡つけたい女性がいるって。あの子だったんだよ結局」
「ああ!あれか!お前断ったじゃん」
「そうなんだけど、なんか菊池さん県名とパン屋っていうキーワードを教えたらしくて、一生懸命調べてきてくれたんだって。可愛くね?」
皆が皆『あの人が…?そんな殊勝な事するかなぁ…』と微妙に疑問を持つ。
「まあ、身長差もいい具合だしな、あの人なら釣り合うんじゃね?」
京介もある1人を思い浮かべ、銀次との身長差を計る。
「そうなんだよな〜(デレデレ)きゅって抱きしめたら俺のジャケットの裾をキュって握ったりしてさ」
きゅって抱きしめたら、ジャケットの裾をキュって握る姿…ん?
「あの人俺に扇子で顎クイしてきたぞ?そんなきゅって抱いたら裾をキュッなんてできなくねえか…?物理的に」
京介の言葉に銀次は
「…お前ら…誰を思い浮かべてる…?」
「「「マドレーヌ」」」
声が揃ってしまう。
「ちげっ!ばっっっっかか!マドレーヌじゃねえわ!おっかねえな!」
「え?違うの?」
てつやも意外な顔で、箸で挟んでいたエビフライをお弁当の上に落とした。
「ちげーわ!もっといただろ!可愛い子が!」
「可愛い子…?」
いないよな?あそこに可愛い女なんて出ねえしな…
こそこそとミニ会議を開く3人。
「三つ子?」
「あれらもおっかねえだろ!何考えてるかわかんねーし!」
じゃあいないな。誰だよ、ともうストレートに聞くしかない。
「まっさんならわかるだろ!俺のこと追いかけ回してた可愛い子!」
「はぁ?かわいい…子…?あ…」
何かに気づいたまっさん
「え、まさか…人形…?」
うんうん、とご満悦な銀次
ええええええええええええええええええええっ!
多分外にまで聞こえるだろう声は出た。
「さっきからおっかねえだの 怖いだろって言ってるけど、あいつがな?今大会でイッチバン怖かったからな?血迷うなよ?銀次」
てつやがストンと銀次の前に移動して、目を醒ませよ!と両肩を揺らす。
「いやいや、それが可愛いんだって。お前らみてないくせに!」
これをみろ!とばかりにスマホを操作して画像を見せつける。
全員顔を寄せ合うようにして画像を凝視
「…誰………?」
食事をした店の駐車場で、皆んなに証拠として見せたいと無理を言って撮らせてもらった画像。
恥ずかしそうにはにかんだ顔がまた可愛らしく写っていて、どうだ!と銀次は超どや顔をする。
「おお〜…これがあの人形か…」
てつやがスマホを受け取って、3人でじーっと見つめる。
「園田玲香ちゃんって言うんだ」
「目は確かにあの人形っぽいな。和風な顔立ちなんだろうな」
と京介。
「あれ、ここって…」
まっさんだけが背景の店に気づいた。
「そうなんだよ。俺ら行った時まっさんどっかの美女と食事してたべ〜。邪魔しちゃ悪いと思って俺、店の人に無理言ってお前が気づかない席にしてもらったんだよ」
「まっさんが美女と食事⁉︎」
てつやと京介の声がハモった。
「なんだなんだなんだ〜〜?お前ら〜。今日の話って恋バナか〜?」
てつやはなんだか嬉しそうに2人を揶揄う。
「まあ、先に銀次の話にしようぜ」
「で、なんの相談なん?うまく行く気しかしねえけど」
てつやがスマホを返しながらさらっと言いのけた。
「まじ?本当にそう思う?」
「だって向こうがお前探してきたんだろ?向こうはその気なんじゃね?」
「そうなんだよなぁ…」
終始デレデレしっぱなし。
「お前の気持ちってどうなんだよ」
京介は言ってみるが、銀次の姿を見てれば気持ちはもう持っていかれているのは見てわかる。
「LINEとか電話でポカやらなければ、うまく行くと思うけどな。ポカやらなければな」
そこは強調しておく。舞い上がると色々やってしまうものだ。
「だよな!気をつけよ。冬にでもなったらみんなで鳴子行こうぜ」
「うぅわ 気ぃはええ」
てつやが笑って言うが、
「え?鳴子?宮城の?」
と 問い返す。
「そうそう、鳴子が地元なんだって。住んでるのはどこか違う場所みたいだけど」
ーだからこけしみたいな格好してたのかー
「いい温泉らしいぞ」
まっさんがスマホで検索していた。
「いいねえ温泉…正月にでもいけたらいいな」
「あ、玲香ちゃんちは鳴子でホテルやってるらしくてさ、そこにおいでって」
鳴子でホテル経営…お嬢様じゃん…しかも玲香ちゃんて…
「お前逆玉狙いか…?」
「いや、男兄弟いるみたいだし」
「それは残念」
しかし…なぜにレースの最中に『ケケケ』だの『キャー』だのの人形で走ってたんだか…。
「ホラー好きらしいんだよな」
そればかりは銀次もちょっとゲンナリ。
まあそれでも、銀次にも夏の終わりに春が来たようです。
「まあ、取り敢えず銀次はこのまま行けばいい感じになれるみたいだから…まっさんは?なんなん?美女と食事って…?」
てつやは興味津々
「いや、見合いをな、させられて会ってきただけなんだけどさ」
「見合いか〜俺らもそんな歳なんか」
京介がしみじみと年齢を噛み締める。
「すんげ〜可愛い子でさ。こっちの話もちゃんと聞いてくれるし、自分の事もきちんと話せてさ、すげーいい子」
まっさんも満更ではなさそうな感じだ。
「何歳なん?」
まっさんが「子」と言うからには若そうだなと思ったてつや
「22歳だよ、若いべ」
「わっか!大学出たてかよ。それで見合い?」
「いいとこの孫だとか言ってたな」
「孫?普通娘とか言うよな」
京介が不思議がる
「◯◯株式会社の部長さんのお孫さん…って聞いたかな」
「へ?うちの会社じゃん…」
京介が缶コーヒーを飲む手を止めた。
「ああ、だから聞いたことあったのか、この会社名。悪りぃあんまよく記憶になくて」
「そりゃいいけど、なんて名前?」
「狛江雪乃さん」
「狛江部長…俺のいる開発部の部長だ…へえ〜世の中狭いな〜」
まっさんもびっくりしている。
「息子さんは確かベンチャー企業で副社長をやってるみたいだけど、うちの会社の方が世間的に通りがいいってことで孫とか言ってんだろうな」
「そう言うことってあんの?」
てつやが聞いてくる。
「ん〜別段恋愛とかならいいんだろうけど、まだ名の通っていないベンチャーだと、見合いじゃあ不利になる時もあるのかもな。あまり気にしない人の方が多そうだよな」
「じゃあ俺なんか見合いできねーや」
てつやが笑って自虐ネタをかますけど、ビルとマンション2棟も持ってれば充分なんじゃないかと思う。
「する必要ねーだろ」
さらりと言う京介に
「それもそっか」
とまたさらりと受けるてつや。
もうこの辺は残りの2人も、さらりと流すテクニックは身につけた。
「で、相談って?」
「ん〜あまりにいい子なんで、迷った」
笑ってまっさんが言ってくる。
「なに、断るの前提だったわけか?」
と銀次。
「俺の嫁の理想があるじゃん。一緒に自転車屋をやるってさ。だから会ってみたらおっとこまえな女性かもって言う感じであったんだけど、そう言う感じじゃあなかったんだよ。でもさあ、違う意味でいい子でさ…あれは、普通だったら逃しちゃいけない案件だわ」
まっさんがこれほど言うのも珍しい。昔から結構女性を見る目は厳しいのだ。
「案件言うなよ」
てつやが笑う
「でもあれだろ?お前もう断るの決めてんじゃん」
唐突にそういう京介にまっさんはちょっと驚いて京介を見た
「なんでわかった?」
「いやわかるよ。女としてしかみてないじゃん。結婚相手としてみてない」
うはーやられた…とまっさんは悔しそうに笑う。
「かーちゃんにも言われてたのに。女だと思って見合いすんなって」
「かーちゃんにまで見透かされてんじゃん」
流石に京介も呆れる
「まっさん溜まってんじゃねえ?」
下世話な話ではあるが、実際25歳と言えばお盛んな時期。店のことや、ちょっと前までロードや大崎、文父の後始末…とあまりそっち方面に気を遣っていなかった気もする。
「そうなんだよなぁ…見合いの人も一回やってから断ろうかとか思っちまうし」
「おいおいやめとけよ。そんなことしたら人生決まるぞ」
京介も、ある日突然部長の機嫌が悪い理由がまっさん、なんていう目には会いたくはない。
「ま、今ので決まったわ。断ろう。って決めてたけどな、実際は」
まっさんならきっといい人が現れる、とみんなはそう思っていた。
そう言えばさ、文ちゃんバイト始めたらしいんだよ」
てつやが楽しそうに話題提供。
「文治がバイト?」
まっさんが真っ先に驚く
「『土日は京介さんにてっちゃん譲ってあげてるから、暇なのよー』って前言ってたから、社会勉強にバイトでもすれば?と言ったら本当に決めてきた」
ー譲られていたんだ、俺ー腑に落ちない京介。
「どこよ」
とは銀次。
「駅前のカフェレストラン。名前は…なんだっけ」
「ああ、あるな。ベル・クレーゼとか言う感じの名前だった気がするけど」
駅を利用している京介は、毎日その店を見ているはず。
「今度いってみねえ?」
イタズラっぽく笑っててつやが言う。
「いいねえ、俺ら協力してやんないとな。売上に」
「そんで恩着せよう」
そんなこと言って笑いあい、決行は来週の日曜日となった。
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