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第32話

千夜さま これがきっと最期の手紙になると思います。 士官学校に合格した時から、軍人になり任地に赴いた時は最前線で戦い、真っ先に死ぬつもりでおりました。 僕は生きている限り、狂おしいほどあなた様を愛してしまう。 僕に抱かれるあなた様の姿を思い出す度、時折見せる悲しそうな瞳をしたあなた様がいた事も思い出します。 あなた様の御心を変える事が出来たなら。 兄さまの事など忘れて僕だけを見て下さったなら。 あなた様を抱く度そんな思いに駆られておりました。 それも死ねばもうお終い。 僕は最期まであなた様を想い続けて逝きます。 さようなら。 (おれが……殺した……勇殿を……おれが……) 涙がとめどなく溢れ、流れた。 大切な人の弟を守る為に生きなければならない、と思っていたのに、心を壊し、命まで奪ってしまった。 おれに、もう、生きる理由などない。 勇殿が旅立った時に死ぬべきだったのだ。 義三郎はふらふらと海に向かって歩いていた。 死のう、と思って向かった海は穏やかで、夕陽を浴びて美しく輝いていた。 『死ねば、もうお終い』 手に携えてきた勇の手紙の言葉を、義三郎は思い出す。 「お終い……」 口に出したところで、義三郎は我に返る。 そうだ。 死ねば楽になれる。 おれの死は逃げる事と同じだ。 少尉殿や勇殿とおれはちがう。 おれはいのちの限り生きて、生きて、苦しんで、苦しんで、それでも償えるかどうか分からないが、決して逃げてはいけない。 おれは、この罪を抱えていのちの果てるその時まで生きていく。 数日後、戦地から士官学校に勇の左脚の骨が遺骨として届いた。 義三郎は林に連絡すると、帰ってきた勇の骨を弔い、朝比奈少尉と同じ墓に埋葬した。 兄弟の名前が並んだ墓に義三郎は病で動けなくなるまで毎日通い、その生涯を閉じた……。

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