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第1話
今日の新幹線は混んでいる。
いや毎日乗っているわけじゃないから、今日がいつもどおり混んでいるのか、たまたま人が多いのか知りようがないけど。
駅の券売機で乗車席を選んだ時も、ほとんど1人掛けの椅子がなくなっているのに驚いた。それでもなんとか、2人席で隣が空いている席を選び、やれやれと指定席に座ったところ――
「隣、いいですか――」
そう声をかけられ、俺は顔を上げた。
えっ……さっきまで誰も隣取ってなかったのに――。
思わず声の主を見ると、水色のワイシャツを着た男が微笑を浮かべて立っている。
「あっ…はい」
置いていたカバンを急いで退ける。男が座ったところを、横目にちらりと見た。
そしてその整った顔つきに一瞬目をみはった。
歳は、自分と同じくらい。
同じ会社にこの男がいたら、女子社員たちが放っておかないような爽やかないい男で、理知的な男を感じさせる端正な顔立ちだった。
それにしても……どうせ座るなら、野郎じゃなくて可愛い女の子の方が良かっ――
「帰宅途中ですか?」
そう横で男から笑いかけられ、下心の後ろめたさもあって俺はたじろいだ。
「えっあ、まあ……」
普通、新幹線の隣の席の人に話しかける?
「出張帰り?」
「ええ、まあ……」
何で分かったんだとか、どうしてそんなことまで聞いてくるのかと考えて、一抹の居心地の悪さを感じた。
会話を終わらせるために、あえて黙ったまま視線を窓の外に逸らした。
外は目にも止まらない速さで高層ビルの明かりが過ぎ去っていく。
出張が終わり、これでやっと帰宅できる安堵感を感じていた。
「どこにお帰りに?」
またも隣からの声に、俺は怪訝な表情で眉根を寄せた。
そんなことを聞いてどうする。
この男、見れば見るほど、顔は非の打ち所がなく、容姿端麗で俳優のようだが、もしかしたら、中身がアレな奴なのか。
「すみません、疲れてるんで」
俺は男に申し訳ないと苦笑いで告げ、再び視線を窓の外に張り付けた。
正面を向こうものなら、また隣のこの男に話しかけられかねない。
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