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第2話
しかし……気まずい。
いつまでこうしていなければいけないのか。
指定席だから、今さら自由席に移動するのも億劫だった。それに、この混雑具合だと、きっと自由席には座る場所がないかもしれない。
ずっと窓の外を見ていると、この数日間の出張の疲れも相まって、肩や首の筋肉が痛くなってくる。
そして何の特徴もなく、夜のネオンがどこまでも流れていく景色は、やがて睡魔を連れてきた。
いつの間にか瞼が重くなってきて、そのうち窓側に身体を預け、俺は眠りに落ちたのだった。
心地よい揺れと爽やかな柑橘のほのかな香り、柔らかさと温みにはっと顔を上げれば、心配そうにこちらを覗くさきほどの隣席の男がいた。
「起きた?」
「あっ、すみませ――」
窓側に身体を預けていたはずなのに、いつの間にか隣の男の肩に寄りかかってしまっていたのだ。
見れば、男は少し困惑を浮かべながら、それでも口元には微笑みが浮かんでいる。
「疲れているみたいですね」
「すみません、気づかなくて」
うっかり、深く寝入ってしまった――。
さっきとは違う気まずさに肩をすぼめて小さくなりながら、俺は降車する駅に到着するのを待っていると、隣から穏やかな声がした。
「僕も、出張から帰るところで」
この男も出張を?
ああそうか、移動中のモデルとか出張ホストとかそういうやつかと勝手に納得していたら、
「どこで降りるんです」
と再び聞いてきた。
「いや、別にどこでもいいじゃないですか」
さすがに何度も尋ねられると、違和感を感じる。
少し語気を強めてあしらったつもりだったが、隣の男は正面を向いたまま、そうですねと呟き、まるで意に介した様子はない。
その言葉を最後に、隣の男は何も話さなくなった。良かったと少し安堵して、今度は無理のない格好で窓の外を眺めていたら、しばらくした後、降車駅のアナウンスが車内に流れた。
あと数分で目的の駅に着くと準備をし始めたのと同じくして、隣の男も缶コーヒーを飲み干し、それをカバンに入れたりと動き出した。
えっ……もしかして、こいつも――?
ちらと俺は隣の男を見たが、尋ねたところで厄介な話になることは目に見えていた。
男の動きに気がつかないふりをして、スーツの上着を皺にならないように抱え直し、到着を待った。
そして新幹線は減速し、目的の駅に着くというとき、通路側の隣の男もゆっくりと席を立った。
「あっ、すみません」
まさか同じ駅で降りるとはなんとなく思いたくなくて、自分が降りるからいったん席を立ってくれたのだろうとお礼を言うと、爽やかイケメン男は、
「いいえ、僕も降りますから」
と満面の笑みを返してくるのだった。
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