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第二章 2
(同じ……年……?)
そろっと片目だけを覗かせる。
一段上にいるせいで大きく見えたが、もう一度見直すと確かに同じくらいのようだった。口をへの字に曲げて、探るような眼差しをこちらに向けている。
(うう……っ)
怖くて固まってしまい、逆に視線が外せない。
「ななせくん。息子の樹。小学校は同じだから、仲良くしてくれると嬉しいな」
「へえ~、同じ学校行くんだ~」
ぴょんと三和土に降りると、間近にやってくる。
「こら、樹。靴履きなさい」
そんな母親の言葉を気にも止めず、眼の前でにかっと笑う。
「おれ、樹。よろしくな、ななせ」
いきなり“ななせ”呼びに驚き、こくこくっと頷くのが精一杯だった。
──これが、樹と僕との出会い。
★ ★
『よろしくな』と言っても、その場のノリの口だけのこと。
そう思っていた。
しかし、数日後の引っ越し当日、業者よりも早く到着して家に入ろうとした瞬間。
「ななせ~!」
聞き覚えのある声がした。
まだ知り合いもいないこの場所で、名前を呼び捨てにする人間は一人しかいない。その人間がいるだろう方向を振り返ると、その家の玄関前でこちらに向かって大きく手を振っていた。
パタパタと道を渡って、白いフェンス越しに話しかけてくる。
「ななせ~毎日待ってたよ~遊ぼ~」
(待ってた!)
あの場限りの言葉ではなかったことに驚く。
でも彼のように活発でない僕は、嬉しさよりも人見知りの方が発動してしまい、はっきり答えられない。
「え……でも……」
もじもじしていると、先に家に入っていた母が顔を覗かせる。あの声量だ。たぶん、家のなかまで聞こえていたのだろう。
「おはよう、いつきくん」
「おはよー。ねーななせのお母さん、ななせと遊んでいい?」
まるでもう何年もつき合いがあるような親しげな言い方だ。今日で二度目に会う大人が怖くはないのだろうか。僕には絶対にできない。
「いいよー」
僕には訊かず、勝手に返事する母。
「え、でも、まだ、引っ越……」
「大丈夫、大丈夫。こっちは平気だから」
「…………」
(平気とかじゃなく……。
知らないコとなんか、あそべない……)
「はい、いってらっしゃい」
ポンッと肩を叩かれる。
いつの間にかぐるっとフェンスを回って玄関前まで来ていた樹に、引き渡される。
「いってきまーす!」
元気に返事をしたのは、勿論僕ではなかった。
ぎゅっと手を握られ連れ去られた。
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