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第二章 1

 ** 第二章 **  僕が今の家に越して来たのは、保育園の年長の年の、夏だった。  家を建て、それまで住んでいたアパートを出た。新しい家はわくわくしたが、それ以上に知らない場所に行くのは、不安で仕方がなかった。  その当時から気が弱くて人見知りだった。アパートの近所の子どもたちともやっと遊べるようになったところで、また一からやり直し。  入学までも半年ということもあり、転園はしなかった。そうなると、保育園の友だちとも同じ小学校に通うこともない。  新しい場所で新たな友だちを作る、これは僕にはかなり難易度が高かった。  そんな不安を抱えたなかで、僕は城河 樹と出会った。  コの字に切り取られた一角に六軒の家が並ぶという予定地。完成し入居したのは、僕の家が最初。まだ更地の場所もある。  だから、引っ越し数日前の挨拶は、すぐ隣とかではなく、もう一つ隣だったり、道路を挟んだ向かい(がわ)だったりする。  知らない人と会うのが怖くて僕は始終母の陰に隠れていた。  道路を挟んだ向こう側の家で出迎えてくれたのは、綺麗で優しそうな女の人だった。  母や姉と挨拶し合うとその女性(ひと)は、母のスカートを掴んだまま後ろに隠れてる僕を軽く覗き込んで、にっこり笑った。 「お名前は? 幾つかなのかなー?」 「…………」  何も答えない僕に母はちょっと苦笑いする。 「息子の七星です。来年小学校にあがります」 「そうなのね」  楽しそうな顔をして、 「いつき~ちょっとおいで~」  すぐ後ろの階段に向かって声をかけた。  バタンっとドアを乱暴に開閉する音が聞こえたかと思うと、男の子がドタバタ階段を降りてきた。  顔も、半袖半ズボンから出ている手足も、日焼けしている。髪は短く、後ろは刈り上げれているようだ。  全体的に活発そうな雰囲気が感じられる。  小学生かな……? 「母さん、何?」  あと二段というところで立ち止まり、僕を見つけたらしい。ゆっくり降りて母親と並ぶと、 「誰?」  じっと見つめて、そう言った。  こわ……っ。  スカートを握りしめるだけじゃなく、顔も隠した。 「お引っ越しのご挨拶に来られたのよ。道を挟んだ向こう側の角のお家よ」  樹の母親がそう説明する。 「ふーん」  どんな顔をして言っているのか、声は興味なさそうにしか聞こえない。 「ななせくんていうんですって──樹と同い年よ」  

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