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第三章 1

 ** 第三章 **  小学校も最終学年になった。  ここを卒業すれば、樹とは別の中学になってしまう。そんなことを時折考えながら、半年が過ぎた。  夏休みも終わってひと月程経った、ある日曜日。  午前中野球の練習をする樹と、午後は遊ぶ約束をしていた。  昼食を終えてから約束の時間に外に出ると、ちょうど樹も家から出てきたところだった。僕らは十五分程歩いたところにある公園へと向かう。  出会った頃良く遊んでいた自宅前の空き地も近隣地区の空き地にも、その数年後に家が立ってしまった。  平日の放課後など時間がない時は、自宅の敷地内の狭い庭や玄関前でゲームなどをして過ごしている。  少し遠出をして公園に来るのは休日くらいだ。  夏休みの間は割りと頻繁にあちこちの公園に行っていたが、このひと月はそれもなかった。    自転車で行くこともあるが、今日行く公園は急勾配の坂の突き当たりにある。自転車ではかなりきつい。そこへ行く時はいつも徒歩だ。  二人並んで歩く。  樹は春の身体検査で、六年生の平均身長を遥かに超えた。今はもう少し伸びているかも知れない。僕とは十センチ以上の差がある。  学校のこと、野球のこといろいろ楽しそうに話す横顔を見る。  いつも日焼けした健康そうな肌。樹につき合って夏を外で過ごしても、たいして焼けない僕。  運動神経抜群の樹、運動は得意ではない僕。それでも樹といることで、恐らく彼と出会わなかった自分よりは体力はついているだろう。  逆に勉強は運動神経程ではない樹を、僕が助ける。夏休みの午前中は二人で宿題をやることが多かった。  何もできない僕だけど、彼の役に立てることが少しでもあることが、嬉しい。  隣で話す声が時々苦しそうに掠れる。  大人への兆し。  僕とは全然違う彼に眩しさを感じ、憧れる。  そんなこと樹には言えないけど。   (知られたら、きっと。  ……気持ち悪がられる……) ★ ★  僕は軽く息を切らしながら、急坂の()き止まりの公園へと辿り着く。  横を見ると、樹は全く疲れを見せていなかった。  この公園にはいつ来ても余り人がいるのを見かけない。すぐ近くに家がないことや、急坂のせいかもしれない。  背の高い木々や草に囲まれた空間は、周りから切り取られているようだ。  あるのは、この辺りの歴史が書き込まれた石碑と、錆びた鉄棒とブランコだけ。  下草は生え放題。昼夜の寒暖さで葉が落ち始め、更にうらぶれた感じがする。  昼でも薄暗いが、夏の暑い日など涼しくて良い。  僕らはここを密かに“秘密基地”と呼んでいた。

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