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第三章 2

   今日の“秘密基地”には先客がいた。  中央にある石碑の前に三人の後ろ姿。  それと、入口から見て右手にある二つあるブランコに二人。その両方が使われている。二人とも軽く揺らしていて、キイキイ音が聞こえた。その二人は、中学生か高校生くらいに見える。  皆一様に髪の色が。  見た目で判断してはいけない。  でも。  何処か不穏な雰囲気を感じて、足を止めた。  樹も一瞬躊躇したが、そのままずんずんと進んで行く。僕は彼らから目を反らし、遠ざかる樹のスニーカーを見ていた。  不意に、シューッという音とシンナーの臭い。    なに?    顔をあげると走りだした樹の背中と、石碑にラッカーを吹きかけている三人の後ろ姿が同時に見えた。  赤、黄色、青。信号機を思わせる色で、赤面するようなセクシャルな言葉や、『K中参上!』という別な意味で恥ずかしい言葉で、瞬く間に石碑が埋めつくされる。   学校の全校集会で「最近学区内で、壁に悪戯書きをされることが多く……」と校長先生の話が思い浮かんだ。    この人たちが?   K中の生徒だったんだ。  そんなことをぼんやり考えている場合ではなかった。   「やめろーっっ!!」  樹の叫び声が響く。  軽く跳躍して足を振り上げていた。      あれは! 飛び蹴り! 「い……っ」  ……っくん!  心の中で叫ぶが声にならず。    後ろを向いている三人には樹は見えておらず、声を聞いてからだと一歩反応が遅れる 「おいっ!」とか「✕✕危ない!」とかブランコの方向からは声が飛んでくる。  格好良く飛び出して行った樹だが、漫画のようにそう上手くはいかない。  一段高いところに石碑があったのと、目標にされた中学生が振り返る為に身体を移動させたのとで、飛び蹴りは不発に終わった。  樹の足は行き場を失う。バンッと音を立てて元はつやつやしていたであろう石碑の台を足裏で叩いた。  当然痛い筈で、 「いたっ」  思わずといった感じで声が漏れた。 「なんだ、お前」  他の二人も振り返り、更にブランコに乗っていた二人もそこに駆け寄る。 「俺は、M小の城河 樹だ!」  名乗りを上げられ、周りは一瞬呆気に取られた様子だ。  い、いっくん?!  僕も呆気に取られて固まる。 「名前なんか、聞いてねー」 「バッカじゃないのっ」  一瞬の()(のち)口々に囃し立てる。 「小学生は引っ込んでろっ」  どんっと押されて、樹が一、二歩よろめく。勿論それくらいで引き下がる彼ではない。  一番近くにいる金髪男子のラッカーを素早く奪い取り、ど突き返す。  不意打ちを食らい、その男子もよろめいた。運の悪いことに石段を踏み外して落ち、尻餅をつく。 「こいつっ」  再び全員が色めき立った。  それにも動じず樹はラッカーを遠くに投げ捨てた。

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