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第四章 3

「どうしたんだろ」  溜息とともに独り言が零れる。 (………………) (傷、気持ち悪かったかなぁ)  まだ治り切っていない傷の上を包帯越しに触り、もう一度溜息を()いた。 ★ ★  その日から樹は来なくなった。  今日は来るか、明日は来るか。  いつもの時間に窓を覗いて見ても、樹の姿はそこにはない。  でも、一度だけ。  来なくなって三日後くらい。  窓の外を見ると、フェンスの向こう。  河津桜の陰に、樹の姿が見えた。  こっちを見ている。 (今日は来てくれた!)  急いで窓を開けたが、彼はそのまま道路を渡って自分の家に入って行った。    ──毎日行くから。  そう約束したわけでもないし、わざわざ家に行ったり、電話をして様子を聞くのもどうかと思う。  きっと、野球の練習や試合で忙しいんだろう。  野球や遊びだけじゃなく、毎日の勉強の大切さにやっと気がついたのかも知れない。  良いように解釈して、この不安を払った。  抜糸も終わり、包帯も取れ、医療用テープに変わり、僕は三週間振りに登校した。  本当はもう少し早く登校できる状態ではあったけど、長く休み過ぎて行くのに勇気が必要で、伸ばし伸ばしにしていた。  母はけして急かさず、行けるようになったら行けばいいよ、と言ってくれていた。  そんな母の優しさと、やはり休めば休む程行きづらくなるんだと感じ、やっと登校することを決意した。 (あと……いっくんに、会いたくて……)  その日の朝、少しどきどきしながら、外へ出た。  もしかしたら、いきなり顔を合わせるかも知れない。  僕らの学校には、登校班というのがあって、近くの子ども同士が決まられた班で登校する。僕と樹はすぐ近くに住んでいたが、班は違う。そして、ルートも違う。  僕らの班が出発するまでの間、樹は姿を現さず、たぶん先に行ってしまったのだと知れる。  期待で膨らんだ気持ちも、しゅんと(しぼ)む。  六年生の教室は最上階の四階。  階段は二か所。少し遠くなるが、樹のクラスの前を通って自分の教室に行く側の階段から上がって行く。 (いっくん、いるかな)  通りすがりに樹のクラスをそれとなく覗く。  樹はもう教室の中にいた。  クラスメイトと楽しそうに話している、 (あ……)  樹が偶然こちらに顔を向けた。  でも。  何事もなかったように、またクラスメイトの方を向いて話しだす。 (…………) (きっと) (僕に気がつかなかったんだ)  暗くなる気持ちを押し込めた。  放課後。  『帰りの会』が終わるとすぐに教室を出た。急いで樹の教室の前に行くと調度終わったところで、廊下に樹の姿を見つけた。 「いっくん」  

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