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第四章 5
(今年も一緒に見たかったな……)
(ずっとずっと、これからも見たかった……)
越してきた翌年の春前に、桜好きの両親は河津桜を植えた。
その年は咲かず、翌年も咲かず、その次の年にやっと花をつけた。
それから、毎年樹と一緒に濃いピンクの花を見ていた。
木は成長して、毎年毎年花の数を増やしていった。今年も見事な花をつけ、通りすがりの人も立ち止まって見ていたが、樹だけはいなかった。
桜葉の間から透かして、樹の家を見ても、今日も誰もいないようにしんとしていた。
体育館の中央に置かれた臨時の壇上で、卒業証書が一人一人授与される。
卒業生の通り道には、僕らが育てた花がプランターに植え替えられ、今日を祝福するように飾られていた。
児童たちは、壇を挟んで向かい合うように、二組ずつ座っている。
僕のクラスと樹のクラスは向かい合っていた。
黒のスーツに薄青のワイシャツ、それに濃い青色のネクタイ。
ぐっと大人っぽく見える。
一番後ろの席だけど、前列の子よりも頭一つ分くらい大きい樹は、誰よりも目立っていた。
僕がこんなに見ていても、少しも視線が合わさらない。
もう、僕のことなんて、忘れてしまったみたいに。
最後の姿かも知れない。
この目に焼きつけておこう。
二組の樹は、四組の僕より全て先に進行している。
卒業証書の授与も、退場も。舞台に上がっての写真撮影も。
ずっと、樹だけを目で追う。
僕にこんな格好良い友だちがいたんだと。
大好きな友だちがいたんだと心の中にしまっておく為に。
そう、奥底にしまっておくんだ。
綺麗な宝物のように。
一旦退場してから体育館に戻ってのクラス写真の撮影。それを終えた順から自由に行動できる。
友だち同士で写真を撮り合ったり、教師と別れの挨拶をしたり。
体育館から外へ出て写真を撮る者もいる。
僕はそうやって写真を取り合う程仲の良い友だちは、樹以外にはいなかった。
その樹も……。
僕らは早々に帰ることにしたが、樹もクラス写真の後にすぐに出て行ったのを見た。友だちの多い樹もその賑やかな中に残ると思っていたのに。
そう言えば、舞台での撮影の中には、樹の母親も父親もいなかった。
ふたクラス前なので、もう帰ってしまったかも知れない。
そう思っていた。
だから、吃驚した。
正門の方へ歩いて行くと、門の向こう側に樹が立っていた。
表情がわかる位置で立ち止まった。
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