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第八章 3
「なんで、ななちゃんにーになるのぉ~」
ちょっと呆れたように言う。
「だって……」
もう消え入りそう。
「だいたい、初めてななちゃんと話した時から変だと思ってたんだよ。手首千切れるかと思うくらい掴まれて、引き離されるし。その後も『ななちゃん』て呼ぶ度、睨まれるし~~。なんでなのか知りたくて、傷見たとかおでこにちゅーしたって挑発したら、お腹にグーパンチだしっ」
唾を飛ばしそうな勢いで明が一気に捲し立てる。
「ダサっ」
大地がけけっと笑う。
「なんだとー」
手刀を頭に見舞おうとして躱される。
「と、とにかく、樹にとって『なな』は特別なんだと思うよ!」
「俺もそう思う。あの時だって、隣にいた俺のことなんて目に入ってなかった感じだった。絶対七星しか見えてなかったってぇ~」
(『特別』とか)
そう言われても、俄に信じがたい。
仲良しだったあの頃は、そうだったとしても。
(僕にとっては、やっぱり今でも『特別』だけど)
「違うよ。二人の勘違いだよ。だって、あんなに怒った顔して。ずっと避けられてて。──きっと、今仲のいいメイさんと僕が話すのが嫌なんだ。こんな気持ち悪い傷、他人に見せるなって、そう思ってるんだよ」
身体がふるふると震え、涙が零れてくる。
男のくせにこんなふうに泣く自分も気持ち悪い。
「いや、樹はボクのこと、そんな大事にしてないし~その傷だって、気持ち悪くなんかないよ~」
ぐすぐす言ってる僕の頭をよしよしと撫でる。
「ななちゃんが言うところの『その傷を見た後』なんで樹がななちゃんから離れたのかわからないけど、今樹がななちゃんを避ける理由なら、なんとなくわかる。いろいろ付随してくるものがあるからなー」
「付随……?」
「樹がK中に入ってボクらがぶつかり合った後、ボクは今まで一緒にいたヤツらとは離れた。樹と一緒にいるほうが面白かったし。樹も仲間を作らなかった。でも、そういう樹をカッコいいと思うヤツらや、仲間に入れようとするヤツらもいて、勝手に周りに集まりだした、高校に入った今もそう。その中には、いいヤツもいるけど、質 の悪いヤツもいる。ななちゃん、あの時女子にわざとぶつかられたでしょ?」
僕はこくんと頷いた。
確かに。あの時だけじゃなく似たようなことはたまにある。
「そればかりじゃなくて──反発してるヤツらもいるんだよ」
明の顔が少し険しくなる。
「えっ。それって危ないんじゃ。やっぱ、七星、城河には近──っ」
大地が言いかけたところで、ばちんっと口を塞がれた。
「いてっ」と叫んだ後何かもごもご言っている。
「ななちゃんには何もないと思うけど──何かあったら、オレ守るから」
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