39 / 156

第八章 3

「なんで、ななちゃんにーになるのぉ~」  ちょっと呆れたように言う。 「だって……」  もう消え入りそう。 「だいたい、初めてななちゃんと話した時から変だと思ってたんだよ。手首千切れるかと思うくらい掴まれて、引き離されるし。その後も『ななちゃん』て呼ぶ度、睨まれるし~~。なんでなのか知りたくて、傷見たとかおでこにちゅーしたって挑発したら、お腹にグーパンチだしっ」  唾を飛ばしそうな勢いで明が一気に捲し立てる。 「ダサっ」  大地がけけっと笑う。 「なんだとー」  手刀を頭に見舞おうとして躱される。 「と、とにかく、樹にとって『なな』は特別なんだと思うよ!」 「俺もそう思う。あの時だって、隣にいた俺のことなんて目に入ってなかった感じだった。絶対七星しか見えてなかったってぇ~」 (『特別』とか)    そう言われても、俄に信じがたい。  仲良しだったあの頃は、そうだったとしても。 (僕にとっては、やっぱり今でも『特別』だけど) 「違うよ。二人の勘違いだよ。だって、あんなに怒った顔して。ずっと避けられてて。──きっと、今仲のいいメイさんと僕が話すのが嫌なんだ。こんな気持ち悪い傷、他人に見せるなって、そう思ってるんだよ」  身体がふるふると震え、涙が零れてくる。  男のくせにこんなふうに泣く自分も気持ち悪い。 「いや、樹はボクのこと、そんな大事にしてないし~その傷だって、気持ち悪くなんかないよ~」  ぐすぐす言ってる僕の頭をよしよしと撫でる。 「ななちゃんが言うところの『その傷を見た後』なんで樹がななちゃんから離れたのかわからないけど、今樹がななちゃんを避ける理由なら、なんとなくわかる。いろいろ付随してくるものがあるからなー」 「付随……?」 「樹がK中に入ってボクらがぶつかり合った後、ボクは今まで一緒にいたヤツらとは離れた。樹と一緒にいるほうが面白かったし。樹も仲間を作らなかった。でも、そういう樹をカッコいいと思うヤツらや、仲間に入れようとするヤツらもいて、勝手に周りに集まりだした、高校に入った今もそう。その中には、いいヤツもいるけど、(たち)の悪いヤツもいる。ななちゃん、あの時女子にわざとぶつかられたでしょ?」  僕はこくんと頷いた。  確かに。あの時だけじゃなく似たようなことはたまにある。 「そればかりじゃなくて──反発してるヤツらもいるんだよ」  明の顔が少し険しくなる。 「えっ。それって危ないんじゃ。やっぱ、七星、城河には近──っ」  大地が言いかけたところで、ばちんっと口を塞がれた。 「いてっ」と叫んだ後何かもごもご言っている。 「ななちゃんには何もないと思うけど──何かあったら、オレ守るから」    

ともだちにシェアしよう!