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第十五章 2

「大丈夫だよ」  僕はやや冷たくなった手を引いて家に(いざな)う。  やはり樹は少し弱っていたのかも知れない。そうでなかったら、小六の以来来ていなかった僕の家にこう簡単に来るだろうか。  それでも後悔したように、玄関の三和土で項垂れたまま立っている。 「いっくん、あがって」 「…………」 「あら? お友だち?」  僕の声が聞こえたのか、母が玄関に顔を出した。 「……こんにちは……」  母は樹のことを上から下まで無遠慮に見、樹は母の足許辺りに視線をおいて挨拶をした。 「お母さん、いっくんだよ」  なかなかわからないらしい母に僕は答えを言った。 「え! 樹くん! 大きくなっちゃって」  母がびっくりするのも無理はない。彼女の頭にある樹は、小学生のあの頃で止まっているのだ。こんなに近くに住んでいるのに不思議なものだ。 「ま、あの頃も七星よりだいぶ大きかったけど──どうぞ、上がって」 「…………」 「お母さん、いっくんの分もお昼お願いしていい?」  僕がそう言うとぱっと樹が顔をあげる。 「あ、いや……」  断ろうとしたのだろう。しかし、樹のその声に、 「いいよー! すぐできるから座って待ってて!」  と言う母の元気な声が被さった。  母も樹の言葉は聞かなかったことにしたんだろう。  母がキッチンに戻り、恐らく樹の分も作り初めている筈なのだが、それでも樹はまだ三和土の上だ。 「いっくん……」   一段上がって少し困っていると、 「にゃ~」  という声と共に今度はティラミスが顔を出して、すりっと樹のジーンズに擦り寄った。  早くおいでよ! そう言ってるみたいに。 「……おまえ、ティラか」  樹の顔が少し和らぐ。抱き上げて頬擦りをする。  ティラも樹を覚えているのか、大人しく抱かれていた。 「できたよー、食べよー」 「いっくん。上がって」   樹は黙って靴を脱いで上がった。  ティラの助け船でやっと樹が動いてくれたわけだけど。  なんか、くやしい……っ。     ★ ★  最初はなかなか目の前の料理に手をつけなかった。  僕は急かすことはしなかった。  母も「イケメンになったねー」とか軽口を言いながら食べる。元気な男の子だった昔と雰囲気がだいぶ変わってしまったことはわかっているだろう。しかし、昔と変わらない態度を取った。  安心したかのようにゆっくり食べ始め完食し、「ご馳走さまでした」と箸を置いた。 「ナナの部屋久しぶりだな……」  ローテーブルの前に座って、ぐるりと部屋を見渡す。膝の上にはティラ。  ティラは、僕らが階段を上がって行くと当然のようについてきて一緒に部屋に入った。

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