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第十五章 1

   ** 第十五章 **  六月初めの体育祭も過ぎ、本格的な梅雨に入る。  昨年の体育祭では本気を出していなかった樹は、今年は大活躍した為、どうやら新一年生にもファンが増えたようだ。  二、三年は元よりで、体育祭後の告白タイムは大幅増加中。  その度に僕の心の中ももやもやが増加するわけなんだけど……。  今のところ、樹が誰かとつき合い始めたという話はなく、それにほっとしている自分の気持ちがよくわからない。  いっくんに彼女、できるの嫌? なんで?  毎度答えが出せずに、思考は途切れる。  ★ ★  雨がしとしと降っている六月の日曜日。  雨が降り込まないほうの窓は少し開けておいた。  ベッドの上に寝転んで本を読んでいると、急に怒鳴り声とバタンッとドアを閉めるような音がした。  声は何を言っているのかは聞き取れなかったが。  僕は窓から覗き込んだ。    城河家の玄関前で雨に濡れて佇んでいる人影が見えた。  いっくん!  思った通り先程の声は樹のものだった。  只事ではない。  そう直感した。  樹が門から出ようとしている。  急いで捕まえなきゃ。  間に合わないかも知れない。  そう思って僕は、ベッドの上に放ってあったスマホをがしっと掴むと、ラインのアプリを開いて、 『そこで待ってて!』  と不審以外の何ものでもないメッセージを送る。これも樹がスマホを持って出ていたら、の話なんだが。  ちらっと窓の外を見ると、樹がスマホをちょうど見ているところだった。  樹がスマホを持っていたことにほっと胸を撫で下ろす。  樹はスマホから目を離し、僕の部屋のほうを見上げた。僕が急いで窓を開けて手を振ると、樹は軽く手を上げて応えた。  すぐに窓を閉めて部屋を出る。  一階では母が昼食の支度をしていた。日曜日は忙しい母も休みだ。 「どうしたのー?」 「あ、ちょっと」  説明してる暇も、どう説明していいかもわからずそれだけ言って外に出た。  樹は我が家のフェンスの向こうに立っていた。  雨に濡れたまま。  顔に水滴が当たって、それが泣いているように見えた。 「いっくん」  フェンスを回り、樹の傍に駆け寄る。 「ナナ……」  「いっくん……どう……」  どうしたの? と言う言葉を飲み込んだ。  樹の左頬が赤くなっている。  まるで叩かれたばかりみたいに。  家にいるの……お父さんだけだよね……。  こんなところで聞ける話ではないような気がした。  僕は何も気がつかなかった振りをして、 「ねぇ、いっくん、お昼食べた?」  殊更明るい声で言った。 「……まだだけど」 「じゃあさ、うちで食べない? 今お母さん作ってるから」  それが思いがけない言葉だったのか、少しだけ驚いたような顔をする。 「……や……それは。突然、そんなの。ナナのお母さんにも悪いだろ」

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