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第十九章 1

  ** 第十九章 **  僕は決めたんだ。  苦しくても辛くても離れないって。  告白なんてしてどうなる。   樹に冷たい目で見られる。嫌われる。また離れて行く。  せっかく昔に近づいてきた関係を壊すことになるかも知れない。  そのほうがずっと辛い。  友だちでもいられなくなったら、そのほうがずっと悲しい。  せめて、卒業までのあと一年。  そのあとは、きっと()く先も分かれ今みたいに会えなくなるだろう。  樹への恋心はそっと、自分のなかにだけ仕舞いこんで、友だちの顔をして隣に立とう。    (許してね。いっくん。  いっくんのことをこんなふうに思っている僕を) ★ ★  二学年年度末テスト最終日。  この日までバイトを休んでいる樹と二人並んで校門を出る。  嬉しいことに今日はバスで来たという。家まで一緒に帰れるんだ。  スポーツ推薦を狙っている大地は早速部活。明は大地が終わるまでグランドの隅で待っている。  ちゃらそうに見えて実は一途な明の時間は、常に大地の為に割かれている。大地に冷たい言葉を浴びせられても。 (大くん。もうちょっとメイさんに優しくしてやってもいいよ。  まぁ。二人の時は違うかも知れないけど)  お互い思い合い、恋人同士の二人をやっぱり羨ましく思う。 (いいな。仲良しの二人……) 「いっくん、テストどうだった?」  自分から話しかける時いつもどきどきしてしまって、大抵どうでも良いことを言ってしまう。 「まあまあ、かな」  そして、すぐに途切れてしまうんだ。 「ナナ……のお陰だな。一年間面倒見てくれてありがと」   (え~。  いっくん何言ってくれちゃってるの~。  僕に。僕に。  ありがとうとか!)  感謝の気持ちを言われただけだけど。  今の樹が、と思うとすごく嬉しくなってしまう。  たぶん顔は赤いだろう。  樹も照れ臭いのか僕の顔は見ておらず、進行方向を向いていた。 「ううん。全然だよ」 「クラス変わっちゃったら、もう見て貰えないか。俺一人でも頑張んなきゃな」 (え? 何?  クラス変わるの残念がってくれてる?)  勉強の為かも知れないが、更に嬉しい言葉を言ってくれる。  今年度最後だからサービスだろうか、と思わずにはいられない。 「お礼したいから、なんか奢る。BITTER SWEETに寄ってかないか?」 「ええっお礼だなんてっ」  思わず声が裏返ってしまう。 (やっぱり今日のいっくん、サービス過剰。  もうここで死んでもいいかなっ) 「何声裏返ってんだ」  くくっと可笑しそうに笑う。 「まあ、テストお疲れ様も兼ねて」 「う、うん。いっくんがそう言ってくれるなら。ありがとう」  すごく良い雰囲気。  二月の終わりの空気は冷たいけど、時々触れ合っているお互いの腕の温かさを感じていた。 「あれ、樹じゃーん」  ちょうどコンビニの前に差し掛かかった時だった。  その少し先を右に曲がると、BITTER SWEETのある住宅街へと入って行く、そんな場所。      

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