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第十九章 4

 黙り込んだまま歩いて行く。  普段はたぶん僕に歩幅を合わせてくれているのだろう。それをする余裕がないのか、僕は彼の背を見ながら歩くことになった。  漸くターミナルのバス停で追いついて後ろに並んだ。  バスの中では二人掛けの椅子に座るも、窓枠に頬杖をつき始終外を見ていた。  ずっと考えごとをしているようだ。  聞きたいことはあるものの、なかなか言い出し憎い雰囲気だった。  最寄りのバス停に到着した。  やはり黙ったまま先を歩こうとするので、堪らずちょんちょんと背中を突ついた。  はっとしたように振り返る。 「ナナ」  まるで僕がいることに今気づいたみたいに。 「……いっくん、ちょっと訊いていい?」  やっと歩幅を合わせて歩いてくれる。  答えは返って来ないが何を訊かれるかはわかっているのだろう。そして、ダメだとも言われないのは訊いてもいいんだと、勝手に解釈する。  一旦周りを見渡す。  これから訊ねることは、樹も余り他人に訊かれたくないかも知れない。  家は近い。知り合いに会う確率も高い。  しかし、平日の昼下がり。余り人はいないようだ。 「リュウセイ会って何? 身辺気をつけろって、あれ、僕にも言ってるように思えたけど……」 「難しい方の(りゅう)に、りっしんべんに(ほし)って書く(せい)──所謂暴走族った奴だ。『湘南』仕切ってるとか言ってイキってる馬鹿な奴らの集まりだよ」 「暴走族……いるんだ、やっぱり」  予想はしていたけれど。 「よく走ってるじゃん。あそこ」  近くを走る高速道路を指差す。 「リーダーの名前つけてるとか、かなりダセェけど。大きなチームであることは確かだな」 「いっくんも……そこに……?」  ヒーローに憧れてた、子どもの頃の樹からは想像できない。  明や大地の言っていた通り、中学時代荒れていたとしても。 「そうだな……母親が家を出て、お前もいなくなって、何もかもどうでもいいと思ってた時だったから」 (僕がいなくなった……わけじゃないよね……?  いっくんが僕から離れたんだ……)  またあの頃の痛みを思い出す。  でも今は樹の話を聞こう。 「一年の時、当時三年だった悪い奴らがそっちに繋がってた。別にそいつらと仲間だったわけじゃないけど、俺とカナは何度も誘われてた。何やっても面白くなかった……っていうか、何をする気も起きなかったし、断るのも面倒になって……なんとなくついて行った」  ゆっくりと歩きながら語る顔には酷く苦いものがあった。  目は過去を見るようにずっと先のほうを見つめている。    

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