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第十九章 5
「当時はまだそんなに大きなチームでもなく、十数台で走ってた」
「いっくんも……うんて」
「運転するわけないだろ。免許ないんだから──今は中にはそういう奴もいるっぽいけど」
(荒れてても、常識あって良かった)
ほっと胸を撫で下ろす。
「俺は後ろに乗せて貰ったり、車に乗せて貰ったりだった。バイクの後ろは最初は怖かったけど、慣れてくると気持ち良かった。それと……喧嘩な」
「ケンカっ」
その言葉に反応して、びくんっと飛び上がる。
「他のチームとの小競り合いなんかがあって、それに加勢してた。両方とも腐っていた俺をすっきりさせたよ」
(いやいや。
ケンカはだめでしょー。
子ども同士のケンカじゃないんだから、暴走族同士なんてっっ)
想像して青ざめる。
「たぶん、それでリュウセイに気に入られたんだろうな──俺もいつものようにやり過ぎて怒られることもなく、それが楽しいことのように思えてた。だけど」
樹の気持ちは変わったのだろうか。
偏差値の高い高校に行きたくて明に勉強を教えてくれと頼み込んだという話を思い出す。
「中二になって、自分の先について考え始めた。高校を卒業したら家を出ると考え始めたのもこの頃で、次第にチームからも遠ざかって行った。チームも大きくなりつつあり、最初の頃の楽しさもなくなっていった。高校入学してからは一度だけ──もう来ないと伝えるために……」
一気に話し、ふっと息を吐く。
荒れていたとは聞いていたけれど、それ程とは。
僕の怪我の先にそんなことがあったことに、また胸を痛める。
(僕のせいじゃないって。
いっくんは言ってくれたけど)
「その後も頻繁に連絡が来るんで、ラインはブロックして、着拒設定にもしたってぇのに……」
ほとんど無表情で話していたのに、急に顔を顰めた。
「ん?」
「まさか、タキがT高に通っていたとは……。お陰で俺のことを知らない筈の奴らが入学当初から集まってくれちゃって」
「ああっ!」
入学二週間くらいの頃に見かけた集団が頭に浮かぶ。
「タキは俺より古株でもっと年上に見えてた。一時期顔を見せない時があって──あとから思えばそれって調度受験シーズンだったんだよなぁ」
(なにっその面白エピソードはっ。
やっぱりああいう人もちゃんと受験するんだ)
何だか急に可笑しくなってしまう。
「離れようとしている俺にいちいちちょっかいかけてくるし、リュウセイからの伝言も彼奴からくるし。ほんと、面倒だった」
T高で会った時のことも思い浮かんだ。
そう言えば、あの時。
「そのチームには女の子もいたの?」
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