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第十九章 6

「チームの中にもいたし、ナンパした女なんかも一緒にいたな……なんでそんなこと訊くんだ?」 「えっとっっ。それはっっ」  逆に訊き返されて、あわあわしてしまう。 (だって、取っ替え引っ替え、とか。  誘われれば、誰でもっ、とかっ)  明や大地の言ったこと、タキが言ったこと。  全部ごちゃまぜに浮かんでくる。 (気になるっ。気になるよ~)  でも、聞いたら聞いたでもやもやしたしまう。はっきり言えば、嫉妬してしまう自分がいるのもわかっている。 「なんか、いろいろ顔に出てる」  くすっと笑われた。 「まあ、高一の途中までは、誘われれば……ってのは、あったな」 (あったって。なにが)  想像はつくが口にも出したくない。 「断るのも面倒だったし、女抱くのも気晴らしみたいなもんだった」  自分から言い出しておいて、あからさまに樹の口から聞くと、顔が真っ赤になってしまう。 「ナナも気づいてたろ、誕プレ持ってきてくれた時」  そうなのだ。  あの時、なんとなく彼女がいるって感じたんだった。  今更ながらいろいろと嫉妬している。  今までも妙にもやもやするなと感じでていたが、今ならわかる。あれは嫉妬だ。 「でも誰かを本気で好きになったことはなかったな……それに、断るのは面倒だったけど、後々更に面倒になったもんだから、やめた」 (誰かを本気で好きになったことはなかった……。なら、今はどうなの? 彼女は? )  それに。  タキが言っていた、リュウセイの女を『寝取った』という話。  それが一番訊きたいことだった。   (それって、もしかして) 「いっくん」  冷静になって、樹に向き合うと。 「じゃ、またな」 「えっ」   いつの間に城河家の前に着いていた。 「あ、うん。また……」  一番訊きたかったことを訊きそびれてしまった。 「あ、ナナ」  門に手を掛けたまま樹が振り返る。 「何かあったら俺に言えよ──お前は俺が守るから」  それだけ言うと背を向け、手を軽く振って家に入って行った。 (久々に言われた……)  T高でタキたちと出会った後、酷く心配そうな顔で言った言葉。 『お前は俺が守るから』 (ひょっとして、また危険を感じているのだろうか)  あの時は、その後タキたちに何かされることはなかった。 『身辺には気をつけろ』『リュウセイ会を舐めないほうがいい』  タキの言葉を思い出す。 (まさか……ね)  俄に信じがたいが、それでも不安は胸の奥に残った。 ★ ★  学年末テストが終わると春休みまで午前授業で終了する。  その後バイトの樹は、バイト先の曲がり角を通りすぎ、僕を駅まで送って戻って行くのを繰り返していた。  どうやらタキの『あの言葉』を気にしているらしい。  それから少し考えごとをしている時が増えたように感じていた。  ──そして、二学年が終了し、春休みに入った。    

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