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第二十章 3

 「樹がまた学校来なくなったり、あの連中とツルんでるのは、その時のことに関係があるかもしれないな」 「いっくん……その……リュウセイ会ていうのに戻ったのかな……」  そう思いたくなかった。  明にも否定して欲しかったが、彼は黙っていた。考え込んでいるような顔をしている。  突然「っんがっ」と文字にし(がた)い声がした。大地が自分の口を塞いでいる手をなんとか外そうとしているところだった。 「っ仲間じゃないだろっ」  やっと自由になると鼻息荒く言い放つ。 「大くん?」 「あんなの仲間なもんかっ。城河とあいつらがやりあってるの、俺見たし」 「えっ」  明と同時に声をあげる。 「大地、オレそれ聞いてない」 (あれ?  『大地』呼び?)  こんな時に言うことではないけど、気になってしまった。 「あ……うん……」  一回言い淀んでから。 「……カナ先輩が見に来てない時だったかな? 部活終わった後、部室棟()の裏で見たんだ」  部室棟は平行に並んで、二(むね)ある。  主に使われているのは一で二は使われていない部屋も多く、ドアと窓は校舎側にしかない。  塀と部室棟の間には木々が植わっていて見え(にく)い。よく『素行の悪い方々』の憩いの場所になっているという噂もある。 「やりあっているというか、一方的にやられてた、城河が」 「樹が?!」  樹は強い。  大勢を一人で相手にしていれば、確かに敵わないこともあるかも知れない。それでも一方的にやられることはないだろう。  明も恐らくそう思って驚いたに違いない。  僕は、と言えばひゅっと喉を鳴らすような音が出たきり何も言えなくなった。 「樹が一方的にやられるなんて……道理で最近ぼろぼろだと思ったよ」 「っねぇ!」  やっと声を出すことが出来た。 「大くん! それ、黙って見てたの!」  普通に考えればそんな中に飛び込んで行ける筈がない。明なら行きそうだが。  でも怒りと胸の痛みで、大地を責める言葉が飛び出してしまった。 「ななちゃん、それはさすがに……」 「あ……七星、ごめん」  明には軽く諌められたが、大地はすまなそうな顔をしていた。 「俺もさすがにあの中に入って行くのは……それに……城河が俺に気づいて『行け』って視線で……」 「でも! 先生に言うことぐらいはっ」  更に彼を責める言葉が止まらない。  理不尽に責められ大地はますますしゅんとする。 「だ……よね。でも俺も動揺してて、そのまま走って帰っちゃって……次の日に先生に言うか悩んでたら、城河からラインが来て『今日のことは誰にも言うな』って」  さっき言い淀んでいた理由はここにあった。 (ライン?  いっくん、大くんにはライン送ったの?  僕には全然くれないのに)  本筋とは別な場所に怒りを覚えた。    

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