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第二十二章 6

   僕は大地と別れ、ゆっくりと歩いた。  敷地内の木々は少しずつ色づいている。この葉が散り、また蕾をつけ花開く前には、もう僕らは卒業するんだ。 (その前にまた、いっくんと……。  叶うだろうか)  門を出て、BITTER SWEETへと向かう。  コンビニの前にさし掛かると、なんとなく駐車場が騷ついているのを感じる。前に絡まれたこと、それが切っ掛けで今の状態になったことが思い出される。  そちらのほうは見ずに通り過ぎようとした。 「いつきの奴──」 (え、いっくん)  単に同じ名前の違う人のことかも知れない。  しかし、反応して見てしまった。  見てから後悔した。  数台の大型バイク。この間の時と似た雰囲気の男たちが、やっぱり駐車場で座り込んでいた。 (うわぁ。  ここのコンビニの店員さん、可哀想だなぁ)  なんて、人の心配などしている場合ではなかった。  その中の一人と目が合ってしまった。  さっと目を反らし、足早に去ろうとしたが、時既に遅し。  目の合った男が他の男たちに何か耳打ちをしているのが、目の端に映った。  そして、皆立ち上がってこちらに向かってくる姿が。 (ええ~。  まさか、でしょ。   僕、何もしてませんよ~) 「待てよ」  肩を掴まれ引き留められ、あっという間に囲まれた。  見たことない顔の筈。それともにいた人もいるのだろうか。 「あの……なんでひょうか……」  怯えて戦慄いた唇から変な言葉が飛び出す。 「なんでひょうか、だって」  彼らはいっせいにげらげら笑いだす。 「僕……急いでるんで……」  そう言って、通してくれる筈もない。 「あ、やっぱりそうか──あの店で樹と一緒にいた奴だ」 (やっぱり、いっくんのことだったのか) 「ふぅん、だいぶ樹とはタイプが違うな」 「なぁ、お前。樹の友だち?」 (そうです!)  胸を張って言いたいけど今はそういう場合ではないし、そうだと言ってたら樹に迷惑が掛かりそうだ。 「知りません」 「嘘だな」  即座にそう言われた。 「お前さ、俺らと遊ぼうぜ」 「遊びません──知らない人についてっちゃダメだって、お母さんが」 (僕、何言ってるだろー)  コミュ障の僕が怖い人たちに受け答えしてる! すごい! というわけではなく、怖すぎて頭が回らず、逆に変な言葉が飛び出してしまってるだけだ。 「お母さんって、あはは、子どもかー」  またげらげら嗤う。 「いいから、こっち来いよ」  両腕を掴まれ、背中を押され、駐車場内に連れて行かれる。 (誰か助けてっ!!)  肝心な言葉は出てこない。  周りに目をやっても、見て見ぬ振りをして通り過ぎる通行人ばかり。  それは、そうだろう。  僕もきっとそうする。    僕は駐車場内に停めてあった車に押し込められた。 (今日は車もあったかー) 「あとで樹も呼んでやるから」  車にはドライバー、僕の両側に一人ずつ。残りはバイクに股がった。 (いいっっ。呼ばなくていいからっっ)  僕は半泣き状態になった。    

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