119 / 156

第二十二章 5

「え? それほんとですかっ」  うんうんと明が頷く。 「出席日数ギリになる前に手を打ったらしい」  右手をグーにして、ぐっと親指を立てた。 「それから──とも離れたらしい。登校して来ても一緒にいるところを誰も見ていない。アイツらの中の誰かとすれ違ってもお互いガン無視だって」  相変わらず明の情報網は凄い。いったい誰からの情報なんだろう。 「たぶん……BITTER SWEETにも行ってないし、学校でも誰とも接触していない。脅しのネタもなくなったんだろ。それに……いつまで構っていても変わらないって、アイツらも飽きたんじゃないのぉ」  両の掌を天に向けて肩を竦める。     (さすがメイさん。  過去に仲間だっただけはある、見解ですっ)  僕も心の中でぐっと親指を立てた。 「じゃあっっ」  めちゃめちゃ食い気味に明の顔に近づいた。  途端に後ろから肩を掴まれた。それ以上近づかないようにだろう。 (あ、ごめん。大くん。  一瞬存在忘れてたよ) 「いやいやいや」  僕の言いたいことがわかった明は、大袈裟に首を横に振った。 「そう簡単にはいかないよ。同じ学校、それも同じ学年にも『仲間』はいるんだし。もうちょっと待ってよ」 「もうちょっとって……どれくらい? もう卒業までそんなにないのに……」  泣けて来そうになった。  卒業してそれぞれ別の道に進んだら、またどうなってしまうのかわからない。  前々からそういう考えはあった。 (僕がいくら一緒にいたくても……)  同じ学校にいる間だけでも一緒に過ごしたい、そう思っていた。 「ん……もうちょっと待ってあげて。樹の努力が無駄になってしまうかもしれないから」  よしよしと頭を撫でられる。 「ななちゃんは、今まで通り。樹にラインしてあげてね」  僕は涙を我慢しながら一度だけ頷いた。 「七星、城河いなくたって俺がいるじゃん」  樹にはまだやや塩対応の大地が、後ろから肩を抱き締めてきた。相変わらず過ぎて、少しほっとした。 ★ ★  十月初め。  二学期中間テスト最終日。  僕と大地は昼食をBITTER SWEETで食べることにしていた。  夏休み明けても結局バイトを続けている明は、テスト最終日からシフトに入れられていた。  大地も一人で時々行っている。たまには二人で行くこともある。大地からのお誘いはもっと多いが、流石に遠慮してしまう。   (僕も一人でいっくんに会い行くのが楽しかったから……) 「ごめん、ちょっとだけ走らせて」  大地と明のクラスの前まで迎えに行くと、両手を顔の前で合わせて謝ってきた。  明はその前に。 「二人はゆっくりおいで~」  と言って走り去って行ってしまった。  なんだかんだと楽しそうにしている。  僕らより一年先に入学して、楽しいことがなかったから学校に来なかった。そう言っていた彼も卒業前までに楽しいことがたくさん出来たんだ、と思うと僕も嬉しくなる。  

ともだちにシェアしよう!