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第二十二章 4

「そうそう。まあ、万が一落ちでもしたら、うちで正社員にしてやるから安心しろ」  ポンポンと明の肩を叩く。 「ひどっ。くそっ樹め、早く戻って来ないとグーパンチだぞっ」  どうやら明は一年の頃に樹にグーパンチをされたことを根に持っているらしい。 (メイさんも……願ってるんだなぁ。  きっといつか。  いっくんが戻ってくることを。  ここに。  そして、僕らの元に)  僕は明の言葉に声を立てて笑ったが、じん……として心の内では涙を流していた。 ★ ★  夏休みも終わり、瞬く間に月日は流れた。  九月半ばには高校生活最後の文化祭も終え、クラス内はだんだんと受験に向けてピリッとした空気を感じ始めていた。  九月に入って一週間程が過ぎた頃。 「夏休み明けてから、また樹来てないな」  ぽつんと明が口にした。  気になってはいたが、なんとなく樹のことを話題にするのは躊躇っていた。 「そろそろ進級危ないんじゃない?」  心配げに言う。 「ですよね。僕も夏休み終わりの日にラインしたりしたんですけど」 「そっか……ななちゃんはまた時々連絡入れてあげてね」 「はい」  そんな会話から、また月日が経った。  明の言った通り僕は時々樹にメッセージを送っていた。 『おはよう』『おやすみ』 『もうすぐ文化祭だね』 『今日は学校来るかな』 『また一緒に』ーー『お昼食べよう』  時々文字が涙で滲みそうになる。  そんな時は。 (何これ。  返信も来ないのに。  ストーカー並じゃん)  あははと笑い飛ばす。  誰もいない自分の部屋で。   でも樹はそのメッセージをちゃんと見ているのだ。  返信は来ないけど、見ている。  それが僕の支えだった。  九月もあと数日。  今日は中庭のベンチで昼を過ごす。  明が僕と大地のところに来るようになったのは一年の今頃から。もう二年経つルーティーンで、よく続いているなと思う。  それから樹も加わって、今彼はここにはいない。  秋めいて来て、また寂しい気分になってしまう。 「……樹、学校来始めたね」  と明。 「あ、俺も見た」  大地はこの二年の間に随分成長して、僕よりも七、八センチは高くなった。夏の部活で真っ黒に焼けていた。  高校総体の長距離で優秀な成績を修め、スポーツ推薦に一歩近づいている。  明の場合成績はダントツでクリアだが、それ以外で些か問題点があり一般入試を狙っている。  僕はと言えば、指定校推薦、一般入試の両方を視野に入れている。  推薦は面接がありそこが問題点。一般入試は人の多さに圧倒されて上がる可能性がある。どちらも何処か問題点がある。  でも、僕も昔よりは強くなってきているのではないかと思う。どちらかは引っ掛かる筈だ。   (いっくんは……受験、どうするんだろう。  学校の先生になりたいという夢は……) 「樹……先生に直談判して、補講やらテストやら受けてるらしいよ」

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