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第二十二章 3
躊躇しながら、そっと扉をあける。
そっと開けるけど、扉についているドアベルは鳴っちゃうので意味がない。
即座に、
「いらっしゃいませ~」
と声が飛んでくる。
樹の声ではない。
けど。
(あれ……。
何処かで聞き覚えが……)
店内の中程に、背の高い男が少し身体を傾げている。どうやら料理をテーブルに置いているところのようだ。
背を向けているが、髪はオレンジ色。後ろに結んでいて、ぴょんと尻尾のように見えている。
(あれって……)
男は料理を置き終えるとこちらに振り返った。
「どわぁぁぁ」と心の中で叫んだのか、大きく口を開けた。
「メイさん……なんで……」
樹が着ていたのと同じ、BITTER SWEETの制服である、白のシャツ黒のパンツ黒のソムリエエプロンを着用している。
明は可愛くトレイを両手で胸に押し当てながら、たたたーっと小走りにやってくる。
(メイさん、なにそれ。
めちゃ可愛いんですが)
「ななな、ななちゃん。どうして」
僕がいることにかなり驚いているようだ。
「メイさんこそ」
「ボクはその、樹がいなくなったし、他のバイトのコも休業中に何人か辞めちゃって大変だって、叔父さんに頼まれて」
早口で説明をする。だいぶ動揺しているみたいだ。
「ななちゃんはしばらく来ないんじゃないかと思ってたのになぁ」
なんだかへこんでる。
僕に来て欲しくなかったんだろうか。
「え? 僕、来ちゃダメでした?」
「知り合いに会いたくなかった~こんなカッコー見られたくない~」
「なんで? カッコいいですよ、メイさん」
何をそんなに嫌がってるのだろう。
めちゃめちゃ格好いいと思うのに。
学校だとやっぱり浮いた感の髪色は怖くも感じたが、ここで見るとお洒落で格好いい。
そして、愛想の良い彼は接客業は似合ってると思う。
「ほんと? ほんとに?」
「はい。とっても似合ってます」
「ななちゃー……」
いつものごとく抱きついて来ようとして。
「あ、七星くん、来てくれたんだ」
店長が間に入って来た。
ちょっとムッとしている明は置いておいて。
「店長さん、えっと」
どう言うべきが悩んだ。
「再開おめでとうございます?」
僕の気持ちがわかったらしく、店長はあははっと笑った。
「わかる~複雑だよね。特に七星くんは酷い有り様を見たわけだから」
「はい……」
二人でしんみりしていると、それをぶち破りたかったのか。
「叔父さん、酷いよね~ボクも受験生だっていうのに働かせるなんて。落ちたらどうしてくれるんだろ」
ぷんぷんだぞと言いたげに、トレイを持ったまま腰に手を当てる。
「メイさんなら大丈夫ですよ~」
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