117 / 156

第二十二章 3

 躊躇しながら、そっと扉をあける。  そっと開けるけど、扉についているドアベルは鳴っちゃうので意味がない。  即座に、 「いらっしゃいませ~」  と声が飛んでくる。  樹の声ではない。  けど。 (あれ……。  何処かで聞き覚えが……)  店内の中程に、背の高い男が少し身体を傾げている。どうやら料理をテーブルに置いているところのようだ。  背を向けているが、髪はオレンジ色。後ろに結んでいて、ぴょんと尻尾のように見えている。 (あれって……)  男は料理を置き終えるとこちらに振り返った。 「どわぁぁぁ」と心の中で叫んだのか、大きく口を開けた。 「メイさん……なんで……」  樹が着ていたのと同じ、BITTER SWEETの制服である、白のシャツ黒のパンツ黒のソムリエエプロンを着用している。  明は可愛くトレイを両手で胸に押し当てながら、たたたーっと小走りにやってくる。 (メイさん、なにそれ。  めちゃ可愛いんですが) 「ななな、ななちゃん。どうして」  僕がいることにかなり驚いているようだ。 「メイさんこそ」 「ボクはその、樹がいなくなったし、他のバイトのコも休業中に何人か辞めちゃって大変だって、叔父さんに頼まれて」  早口で説明をする。だいぶ動揺しているみたいだ。 「ななちゃんはしばらく来ないんじゃないかと思ってたのになぁ」  なんだかへこんでる。  僕に来て欲しくなかったんだろうか。 「え? 僕、来ちゃダメでした?」 「知り合いに会いたくなかった~こんなカッコー見られたくない~」 「なんで? カッコいいですよ、メイさん」  何をそんなに嫌がってるのだろう。  めちゃめちゃ格好いいと思うのに。  学校だとやっぱり浮いた感の髪色は怖くも感じたが、ここで見るとお洒落で格好いい。  そして、愛想の良い彼は接客業は似合ってると思う。 「ほんと? ほんとに?」 「はい。とっても似合ってます」 「ななちゃー……」  いつものごとく抱きついて来ようとして。 「あ、七星くん、来てくれたんだ」  店長が間に入って来た。  ちょっとムッとしている明は置いておいて。 「店長さん、えっと」  どう言うべきが悩んだ。 「再開おめでとうございます?」  僕の気持ちがわかったらしく、店長はあははっと笑った。 「わかる~複雑だよね。特に七星くんは酷い有り様を見たわけだから」 「はい……」  二人でしんみりしていると、それをぶち破りたかったのか。 「叔父さん、酷いよね~ボクも受験生だっていうのに働かせるなんて。落ちたらどうしてくれるんだろ」  ぷんぷんだぞと言いたげに、トレイを持ったまま腰に手を当てる。 「メイさんなら大丈夫ですよ~」

ともだちにシェアしよう!