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第二十二章 2
「それはなかなかつらそうだぞ~七星~」
涙声で言う。
「でも、本当は樹もななちゃんのこと思ってると思うよ~だってライン繋げたままだもん。きっと樹も捨て切れないでいるだ。だから……いつか……」
「メイさん……ありがとう……」
ぎゅーっと何故か男三人で抱き合った。
少し気持ちも落ち着いて、二人が持ってきてくれたものを食していた。
口が空いた時に明が「そう言えばさ」と話し始めた。
「BITTER SWEET来月中に再開出来そうだよ」
「え? ほんとに?」
6月の初め。
樹に会いに行った時の酷い有り様を思い出す。
樹は『俺のせいだ』と悔しげにし、店長もかなり気落ちしていた。
「樹も辞めて、店も休業の張り紙出して、落ち着いたらしい」
「俺は全然行ってなかったけど、かなり酷かったんだろ?」
僕と明は同時に頷いた。
明と店長は親戚で仲も良いので、事情も良く知っているようだ。
「……いっくんは……」
戻ってくるのだろうか。そう明に訊きたくて、でもそれはすぐには無理だろうと、途中で口を閉じた。
「うん……叔父さんは、樹に連絡したけど、戻る気はないようだって。辞める時に『もっと早く辞めるべきだった』とめちゃめちゃ悔しそうにしてたから……なかなか……本当になんの危険もないと思えるまでは、ムリかな……」
「そうですよね……いつか、そんな日が来るといいいな……」
(儚い願いかも知れないけど)
七月三十一日の僕の誕生日が過ぎ、八月一日。
今日は樹の誕生日だ。
『いっくん。お誕生日おめでとう』
朝一番でラインした。
勿論返信は来ない。
でも既読はついている。
この間一人で水族館に行った。
二人で回った時のこと、プレゼントを貰った時のことを思い出しながら。
そして、海月のチャームを二つ買った。樹が何か気にしていたから、大地たちとは違うもの。
自分で箱とリボンを買ってラッピングをした。
もう一つは自分の机の引き出しの中へ。
ラッピングされた小さな箱は、城河家の玄関のドアノブに掛けた。
それが午前中のこと。
昼食を食べ、自分の部屋に戻る。
ふと、窓の外を見ると、ドアノブには何も掛かってなかった。
(いっくん……受け取ってくれたのかな?
それとも、捨てられちゃったかな……)
繋がったままのライン。
プレゼントは受け取ってくれたと、良いほうに考えることにした。
★ ★
夏休みも終わり頃。
僕はBITTER SWEETの前に立っていた。
勿論ここに、樹はいないだろう。
それでも、元の姿に戻ったBITTER SWEETが見たかった。
白い塀には落書き。電飾は飛び散り、看板やメニューは壊された。それと樹の辛そうな顔が一緒になったままでは。
僕もやりきれない。
塀は元の白い色に。
今は昼間で光は見えないけど、また新たなイルミネーションの飾りが施されていた。
門の前の看板やメニューも一新されていた。
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