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第二十三章 2

 念を送った成果が出たのかどうかわからないけど、リーダー格の男が立ち上がってこちらに向かって歩いて来る。 (わ、ほんとに来たっ。  僕、ボコられるのかなっ)  男は僕の傍に片膝を立てて座り込み、上から顔を覗き込んで来た。 「お前、樹とラインか何かで繋がってねぇのか。助けて~って連絡してみろよ」  また遠くから笑い声が波のように立った。  僕はぶんぶんと頭を横に振ろうとするが、寝っ転がっているので上手くいかない。 「し、りません。……僕、城河とは、友だちじゃない、のでっ」 (ごめんねっいっくん。呼び捨てなんてして。友だちじゃないとか、言いたくないのに)  でも、ここは知らないで通したい。  樹が助けに来てくれたら嬉しい。けど、来て欲しくない。 (もし、大事(おおごと)になって学校に知られたら……先生に直談判して補講したのに、無駄になっちゃうかも) 「ふうん」  全く信用してないような顔をしている。 (お願い! 信じて!)  心の中ではたくさんしゃべってるけど、実際には何も言えない。 「お前さぁ……これ……」 (ん?)  男の視線。  手が僕のほうに伸びてくる。  これは。 「大人しそうな顔して、すごい傷が」 (ですよねーっっ。この下りいったい何度やれば)  額を隠したかったが、後ろ手に縛られてそれも出来ない。  少しずつ手が近づいてきて、そしてぴたりと止まった。  入口付近が俄に騒がしくなったからだ。  ドアが大きく(ひら)かれ、一人の背の高い男が立っていた。 「ナナに触るなっっ!」  食事をしていた男たちは立ち上がり、既に臨戦態勢に入っている。 「えっっ」  吃驚して声を上げてしまったのは僕。  僕の傍の男はゆっくりと立ち上がった。 「樹……」 「いっくん、何で」 (いっくん、何それ──ヒーローみたいな登場の仕方っっ)  樹の為には来て欲しくなかった。  それでもこうして来てくれたんだと思うと、やっぱり嬉しい。 「あーやっぱり知り合いじゃん。しかも相当親しい感じかー」 (あー……名前呼んじゃってたよー)  僕も樹も、お互いの名前を口にしてしまい、もう誤魔化しようがなかった。 「どうやら、やっと連絡ついたらしいな。誰がしたのか知らねぇけど」  男は僕の前から動かず声を張り上げた。 (いっくん、いくらなんでも。一人で来るなんて危険過ぎるよ~)  嬉しさの余り忘れそうになっていた。  この建物内には十人近くの敵がいる。入れ替わり立ち替わりしてるし、まだ増える可能性もある。  それに一人で立ち向かうのか。   (それとも……自分がボコられるのを条件に……)  どきどきと心臓が暴れる。縛られた手が汗を掻き始めた。  そう思っていたら、突然場に相応しくない気の抜けるような声がした。 「はーい。連絡したのは、ボクちゃんでーす」

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