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第二十三章 3

 場にそぐわない気の抜けるような声が聞こえた。 (え……っこの声って……)  ひょいっと樹の影からオレンジ色の髪が現れた。 「カナ」  目の前の背が名を呼んだ。  どうやらこの男は樹のことだけではなく、明のことも知っているらしい。 「彼奴らまだツルんでたのか」  樹より少し背の高い明は、本当なら入って来た時に気づく筈。わざと樹の後ろで屈んで見えないようにしていたのだろう。 「わぁ~こういうの久々でわくわくしちゃう~」  彼は妙に楽しそうだった。 (メイさん……そんな楽しそうに……)  そんなにこにこ顔をみていたら、目が合ってしまった。  更に手まで振ってくる 「ななちゃーん、心配したよぉ。いつまでも経ってもお店来ないからさぁ。だいくんも先に行かせるんじゃなかった!ってめちゃめちゃ心配してたよぉ」  割りと緊迫した状況だと言うのに、いつも通りの明。  どうして二人がここに来たのか、経緯は気になるけど。 「カナ、うるさい」  樹に窘められた。  それでも彼の口は閉じず。 「ラインしても返信なし、電話して見たら電源切れてるし」  そう言えば、ここに来た時電源切られたっけと思い出す。  明は余裕そうに話しているが、戦闘は既に始まっていた。  十人程の場数を踏んでそうな方々が一斉に二人に襲いかかる。  殴られたり蹴られたりの音が響いていた。  今は人数に負けず、二人のほうが優勢に見える。  そこで鉄パイプが何本か登場する。 (あーここ、あちらさまの陣地だもんね。何かしらあったりするよね)  急に不安が増した。  それなのに。 「さすがに心配になっちゃって、樹に連絡しちゃったよー」  応戦しながらも明の話はまだまだ続く。 「龍惺会が関わってるんじゃないかと思ってさ。ちょっと関係者に連絡しちゃった。それでいくつか巡ったんだ、ボクちゃんの愛車で」   (関係者? なんのことだろ。愛車は──バイクのことかな? それでいっくんと一緒に。メイさんありがとー)  つい聞き入って心の中でお礼言っちゃったけど。 「あ、メイさん! 危なっっ」  僕のほうを見て話をしている明の後ろから鉄パイプが! 「カナどけっ」  樹の怒鳴り声に素早く反応した。  いでぇーっっと叫んだのは、その男のほう。後ろから樹に蹴りを入れられていた。 「さんきゅー、樹」  ハートマークでもついてそうな言い方。  明は楽しそうに喧嘩に混ざった。  僕に背を向けている男は、ぎゅっと両手を握り締めているが入って行こうとはしない。   (これって、ひょっとして、何かの時には僕を……とか?)  男の意識が向こうに集中している間にどうにか逃げる……と思ってみたものの、手足縛られてて芋虫のような状態でしか動けないことが発覚。 (二人とも、ごめんっ。何かの時には僕のことは放っておいてっっ)

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