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第二十三章 10

 僕はここが他の患者がいる病室だという気遣いも忘れてしまう。  感情が高ぶって、たぶん声もだいぶ大きくなっているかも知れない。  零れそうだった涙はその言葉と共に流れて出た。 「だって、僕、いっくんが離れてからも、ずっと気にしてたもん。中学が違っちゃってから見掛けることも少なくなっちゃったけど、でもずっと気にしてた。こっそり窓からいっくんち見て、たまにいっくんが帰ってくるとこなんか見掛けると心の中で話し掛けたりなんかして」  勢いで全部暴露してしまった。 「あ、こんなの何だかストーカーみたいで気持ち悪いよねっごめんっ」  言い訳しようとして余計に墓穴を掘った感じになった。    樹はいったいどんな顔をしてるのか。  見るのが怖い。  視線はシーツの上を彷徨った。  ストーカー的発言を早く消し去りたくて、僕はまた話を続けた。 「まさか同じ高校に通うことになるなんて思わなくて。T高で初めていっくんを見掛けた時、めちゃくちゃ嬉しかった。もしかしたら、また話せるようになるかも、なんて。でもそんなこと出来る筈ないってすぐに打ち消した。だって、それが出来てたらあんなふうに離れる筈ないって」  話し出してみれば、想いは次々と溢れだす。  それと共に視線は上がり樹の目許で止まり、二つの視線は絡み合った。 「──偶然言葉を交わすことができたけど……いっくん冷たくて、やっぱり僕が嫌いになったのかな……だから、離れたのかなって思った。それが辛くて……それに……雰囲気も前と全然違っちゃって……近より難く感じちゃって……だからなるべくいっくんの目に触れないようにしてた」 「ーーそうだよな。気づいてた、ナナが俺のこと避けてるって」  樹が静かに口を挟んだ。 「それでいいんだって思ってた。俺もナナとは関わらないって心に決めてた。そうしないと今までのこと全部無駄になるって」 「だけど」  二人同時にその言葉を口にした。  樹がまた黙ったので、僕がその後を続けることにした。  ここまで言ってしまったんだ。  全部話そう。 「メイさんと仲良くなったことで、少しずついっくんと関わって、だんだん近づいてきて……昔のヒーローみたいないっくんとはまた別の……ぶっきらぼうな優しさとかに触れて。やっぱりもう一度いっくんと一緒にいたいって思ったんだ。僕は昔と変わらず、いっくんのことが好きなんだって」   (あれ? 今僕ひょっとして告白しちゃった?)  僕自身はあの修学旅行で自覚した『想い』が、一瞬頭に浮かんだけど。   でも、樹にとっては『友だち』の『好き』。そう思ってる筈。というか、そう思って欲しい! 「俺も」と樹が言った時、どきんとしたけど。 「俺も──ナナと少しずつ接触するようになって、最初はやっぱり駄目だと思ったから口調もきつくなってたし。でも、お前が一生懸命俺にぶつかって来てくれたから。俺、本当は嬉しくて」 (嬉しかった……? 嬉しかったの? 何それ、僕のほうが嬉しい,)  そして、さっき僕が言ったことは軽くスルーされ、ほっとしたような、ちょっと寂しいような複雑な気持ちになった。

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