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第二十四章 3

★ ★ 「ナナ、おめでとう」 「いっくんありがとう……あの」  僕はもじもじとした。  なんて、声を掛ければいいんだろう。  何故か後ろめたい気持ちになってしまう。  そんなふうにしていると。  ピシッと軽くデコピンされた。 「まだ気にしてるのか? お前は素直にお祝いされてればいいんだよ」  晴れやかな笑顔だった。    樹は本当に気にしてないのだ。  気にしているのは周りだけ。  卒業式の話が話題になる度に。卒業式が近づいてくる度に。  つい一昨日も。  二月から三年生は自由登校に入っていたが、その日は午前中卒業式の予行練習が行われた。卒業しない樹は休みだった。  僕が家に帰った頃、スマホにメッセージが届いた。 『お昼食べた? そっち行ってもいいか?』  樹にそう言われれば、断る筈がない。嬉しくて飛び上がりたいくらいだ。  僕は『うん、待ってるよ~』と返信した。  しかし、午前中に卒業式の予行練習があった為に、僕は何だか後ろめたい気持ちになったのだ。それが顔に出ていたのだろう。樹は今と同じようにデコピンをして「俺は平気だから」と笑ったのだ。 「これ、お祝い」  そう言って渡されたのは、ピンクのチューリップが四本と、小さな花をつけている僕の知らない花の可愛い花束だった。 「ありがとう──可愛い」 (いったいどんな顔をして買ったんだろう……)  僕は想像して、ふふっと心の中で笑った。  店員はきっと恋人へのプレゼントだと思ったに違いない。 「甘い匂いがするね」 「これ、ジャスミンって花らしいよ」 「そうなんだ」  樹がじっと僕を見詰めている。  どうしたのかな、と思って見詰め返すと、何か言いたそうに口をもにょもにょ動かしていた。  ぽりぽりと鼻の頭を掻いて、また口を開いては閉じる。 (いっくん、どうしたのかなー?) 「──本当は赤い薔薇なんかが定番なんだろうけど」 「何が?」 「この花も赤は同じ意味だし」  僕の問いの答えにはなっていないようだけど。聞こえなかったろうか。 「ピンクのチューリップのほうがお前に合ってると思って……その、可愛い花だから」 (えっなにっ急に可愛いっとかっ)  その言葉にぽっと顔が赤くなったような気がして。 「今日雪降ったから寒いね。顔赤くなってない?」  そう誤魔化した。 「そういえばそうかな」  樹の両手が上がって僕の頬を包みこんだ。 「俺の手も流石に冷たいか」 「あったかいよ」  本当はちょっと冷たかった。でも気持ちは温かい。というより、熱いかも。 「──本当は赤い薔薇……あ、別に赤いチューリップでもいいか。百八本、いや、三百六十五本あげたいくらいなんだけど」  ぼそっと独り言のように呟く。 (いっくーん、いったい何の話してるの~?) 「けど、でも間違いじゃない」 「え? どいうこと?」  樹の言うことが全くわからなかった。 「いや、何でも」

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