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第二十四章 4
一人完結してしまった樹。
まだ彼の手は僕の頬にあり、その目はじっと僕の目を見詰めてる。
(いっく~ん。どうしたの? 固まってるよ~。そんなに見つめないで)
どっどっどっと心臓がものすごいスピードで鳴り響く。
堪りかねて。
「いっくん、僕ね。写真撮ろうとしたんだ」
さっきスマホを取りに行こうとしたことを思い出し、それを話しかける理由にした。
(率直に、ドキドキするから離れて~なんか言えないもんね)
「あ、そうなんだ?」
やっと彼は動き出し、手を離した。
「うん。桜の木にね、雪が積もって。──ほら、花が咲いてるのに雪積もってるなんて見たことないでしょ。それに更に朝日が赤く……」
そこまで言って気づいたことは、もうその奇跡的な瞬間は終わっていたということ。普通に輝く太陽の光が当たっている。
勿論それはそれで綺麗なんだけど。
「あ、もう終わってた。赤くなっててめっちゃ綺麗だったんだよ」
「あ、それは変なとこで声掛けちゃったな」
樹がすまなそうな顔をする。
ただ、理由が欲しくて話し始めただけなのに。樹に謝らせてしまった。
「あ、いいの、いいの。僕、写真撮るのヘタだし。目に映ったままが一番綺麗だし、目に焼きつけおくっ」
『気にしないで』という気持ちを伝えたくて、早口で言葉を並べる。
(それから、一番、大事なこと)
「それに──いっくんに今日一番にお祝いして貰えて嬉しいから」
大切に花束を抱えて。
でも恥ずかしいので視線は樹の胸の辺りに。
樹はどんな顔をしているのだろう。
そう思うと、ぽんっと頭の上に大きな手の感触がして、「おー」という照れくさそうな声が聞こえた。
そのあと照れ隠しのようにくしゃくしゃっと髪を混ぜられた。
「よーし、帰って来たら、乾杯だな。勿論、ジュースだけど」
「いっくん」
上目遣いで見ると、朝日と同じくらい眩しい笑顔とぶつかった。
「うん! ありがとう。 大くんとメイさんにも言っておくね!」
嬉しくて声が弾んだけれど。
何故か急に樹の顔が微妙な表情になる。
「……あー、そうだな。じゃあ、あいつらにも言っておいて」
「う……うん?」
(あれ? いっくんどうしたのかな)
「……ま、今回は、それでもいっか……」
と口の中で呟く。
「じゃあ、またあとでな」
樹はフェンスから離れて道を渡り、門の中に入る直前でもう一度振り返った。
大きく手を振るのに、僕も振り返した。
(なんか……今日のいっくん、へんなの……)
言いたいことをちゃんと言えてないような。
それでいて、一人で完結させてしまっているみたいな。
小さな疑問が胸に残しながら。
高校生活最後の日の準備に取り掛かった。
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