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第二十五章 1

 ** 第二十五章 ** 『今度水族館行かないか?』 『水族館? え、行きたい!』 『一昨年彼奴らと一緒に行ったとこでいい?』 『うん! いいね! またで行きたいと思ってたんだ』 『あれ? いっくん、どうしたの?』 『なんでも。じゃあ、春休み中でナナの都合のいい日教えて』 ★ ★  卒業式も終わり、ひと月の春休みに入った。  大学進学の準備などを進めていた、そんなある日。  樹からのメッセージが送られてきた。  彼はまだ春休みに入ってはおらず、通学して補講やテストなどを受けていた。お仲間は何人かいるらしい。  樹のほうからのラインというだけでも嬉しいのに、素敵なお誘いを貰った。こういうことは明からの発信が多いが、今回は樹の発案なのだろうか。  本当に珍しいけど、樹はまだまだ変わりつつあるのかも知れないと思う。しかも、良い方向に。  樹の春休みが三月二十六日からというのを考慮して、それ以降に日程を立てた。  それが今日。三月二十八日。  十時台最初のバスに一緒に乗っていこうと二人で決めて、それに間に合うように外に出た。  樹は既に僕の家のフェンスの外側に立っていた。 「いっくん、おはよう。もしかして、けっこう待った?」 「おはよう。今来たところ」 (何これ。なんかデートの待ち合わせみたい)  待ち合わせと言ってもすぐ家の前だし、樹にそんなつもりは全くないことはわかっている。  僕は一人勝手に照れていた。  バスに乗って最寄り駅まで行き、そこから電車に乗る。  樹は躊躇なく駅へのエスカレーターに乗り、改札を抜けホームまで行く。僕はそれについて行ったが。 (あれ? 大くんたちは?)  改札手前でもホームでもきょろきょろしたが、それらしい姿はなかった。勿論電車の中でも、その後の乗り換えでも。 (もしかして、二人はメイさんのバイクで来るのかな?)  それなら待ち合わせは、水族館入口だと勝手に納得した。  しかし、樹は二人分の入場券を買い、僕を促して水族館の中に連れて行く。  それまでの道のりでも口数は少ないが会話はあった。そのことについては何も触れていない。  二階の展示場に上がるエスカレーターに乗り込もうとして、流石に僕は樹を引き止めた。上着の裾を軽く引っ張り、人の邪魔にならない隅の方に行く。 「何? どうした? トイレに行きたかったのか?」  確かに僕の引いて行った先には、トイレがあった。 「違うよ~」  慌てて目の前で手を振る。 「そうじゃなくて。大くんたちは?」 「え?」  樹は驚いたような顔になった。 「なんで、日下部?」  あれ? と僕は心の中で首を傾げる。 「え、今日大くんとメイさんも一緒なんじゃ……」  ふっと樹が横を向いた。 「一緒じゃねーよ」 「え?」 「俺──彼奴らと一緒だって言ったか?」

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