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第二十七章 3

『今日は忙しかったろ』 『うん。まだ全然片付いてなくて』 『帰るの申し訳ない感じだった』 『仕方ない。このバス最終だから』 『うん』  しょんぼりスタンプを送る。 『頑張ってんだな』 『最初は大丈夫なのかって心配してたけど』 (心配してくれたんだ……)  じんわりと嬉しくなってくる。 『ありがとー』  ハートマーク送りたいけど、やっぱり気持ち悪く思われそうで出来ない。明が平気でやるのが少し羨ましい。 『いっくんは今日は? 何処か行ってたの?』 『昼間模試があって、その後母のところに行ってた』 『そうなんだ』 (お母さんとちゃんと会えてるだ。良かった)  それから他愛もないメッセージの遣り取りをした。最初は同じバスに乗っているのに、顔も見れない距離が淋しいと思っていたけれど。 (なんだか二人だけの秘密みたいでときどきする) (いっくんは……どう思っているのかな……)  花が伝えるメッセージは、樹の想いか、それとも意味のないものか。自分にとってはこんな些細な出来事も幸せに感じるけど。彼にはなんともないことの可能性も大だ。 『もう着くな』  その言葉が送られて来た途端、ピンポンとバス内に高い音が鳴る。そこかしこにある降車ボタンが点灯する。 (あ……もう終わり……)  いつもは長く感じる時間もあっという間だった。  バスが停留所に着いた。  中程にいる樹は僕を待つことなく降りて行った。  終点一つ手前のバス停ともなれば、もうそれ程乗客もいなく、僕はその一番最後にのろのろとついて行った。 (いっくんは……待ってるわけないよね──やっぱり、あの花は意味のない唯の花。少なくも僕の想いとは違う。だって、僕は会えないなんてやっぱりやだもん)  ゆっくりとコンクリートの歩道に降り立つ。  しょんぼりと、下を見ながら歩き始める。隣をバスが通り過ぎて行った。 「おいおい、しかとか」  そんな声が追いかけてくる。 「え?」  僕は立ち止まって振り返った。 「いっくん?」  僕の少し後ろ。バスを降りてまっすぐの、歩道の脇の植え込み近くの位置に人影が。  人影はパタパタと軽い足音を立てて僕の傍にやってきた。 「……先帰ったかと思った……」 「相変わらず下見ながら歩いてるのな。前見て歩けよ」  ぴしっとデコピン。 (いっくんこそ……僕にデコピン、癖だよね……)  呆然と樹の顔を見つめ、それからじわじわと嬉しさが湧いて来る。  待っているなんて思っていなかった。 (だって、樹だから) 「バスの中でもいっくんのとこ行こうとしたら、止められたし」 「あ、やっぱし、来ようとしたんだ?」  図星過ぎて、ぐっと喉を詰まらせる。 「えーまー、まさにアレが送られて来た時にですねっっ」  自棄っぱちのように言った。  

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