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えぴろーぐ 1

 ** えぴろーぐ **  ピンクのチューリップ『誠実な愛』  四本のチューリップ『あなたを一生愛します』  ジャスミン『あなたと一緒にいたい』  百八本の薔薇『結婚してください』  三百六十五本の薔薇『あなたが毎日恋しい』  ユーフォルビア・ダイヤモンドフロスト『君にまた会いたい』 ストック『愛の絆』  花々が語る愛の言葉。 ★ ★  ──予感がして、家の外に出た。  樹が外で待っている予感が。  昨年の今日樹が僕の卒業を祝ってくれたように、僕も樹の卒業を祝いたい。  贈り物を手に。  外は雪がちらついていた。  濃いピンク色の花をつけた河津桜に雪が積もり、それが朝焼けで紅く染まる。  昨年の今日とまるで同じ光景。  僕らと一緒に卒業出来なかった樹が卒業するこの日に、再び見ることの出来た奇跡。  パタパタと道を渡って来た樹は高校の制服を着ていて、樹と一緒に卒業したかった昨年の、制服姿の僕と繋がったような気がした。  樹はフェンスの向こう側ではなく、フェンスを回って河津桜の下にいる僕の傍らまで来た。 「いっくん、卒業おめでとう」  樹の顔を見上げ、僕は言う。 「ありがとう、ナナ」  樹の少し照れ臭いような顔が眩しくて、僕はどきどきした。  でも、どきどきしているのはそれだけじゃない。  後ろ手に持っている樹への贈り物がカサっと音を立てる。  花言葉は。  一つの花にいくつか意味があったり、時には色や本数にも意味がある。ネットで調べてもライターに依って微妙に解釈も違う。  だから樹がくれた花たちも、僕が都合よく思っている意味とは違うかも知れない。そもそも目についた花を買っただけで、意味なんてない可能性も大きい。 (女の子とつき合っていたいっくんが、男の僕のことを……なんて、考え辛い……)  間違ってるかも。でも、気持ちは伝えよう。  樹なら受け止めて、間違いでも『親友』でいさせてくれることを信じて。 「あの……いっ……」  「俺!」  言いかけてところで、それを遮られた。樹には珍しい性急さが声に現れている。 「大学も合格して、卒業も出来たら、ナナに伝えようと思った。俺」 (わわっいっくんっ何言うつもりだろっ。でも、とりあえず僕がさきっ) 「あ、待って待って」  僕は慌てて遮り返した。 「え……」 「あの……先プレゼント渡していい?」  上目遣いに見る。  樹の顔に訝しむような色が滲む。 「あの……これ……」  後ろ手に隠していた贈り物を自分の顔の前に持ってきた。  ──赤い薔薇の花九本の花束。 「あ……」  花の間を透かしてみると、切れ長の目が一瞬まん丸になったような気がした。  僕は花束で隠れた顔をひょいと覗かせて。  それからおずおずと短い言葉を発する。 「あの…………僕、間違ってる?」

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