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樹編〜花詞〜 5

 朝会えなければ、卒業式後に証書片手に七星の家に訪れようと考えていたのに。 「あの…………僕、間違ってる?……いっくんのくれた花たちのメッセージの答え……なんだけど」  赤い薔薇の花束に埋もれた顔恥ずかしげな顔が、猛烈に可愛かった。 (まじか……アレが通じたってのか?) (赤い薔薇の花言葉は……愛情……あなたを愛しています。それから……九本の意味は……確か……いつまでも一緒にいてください……) (通じただけじゃなくて……これがそれへの答え?……ほんとかよ?) (ナナこそ本当にわかってやってんのか?)  俺の頭の中は忙しく、俺自身と対話していた。  七星が一人赤くなったり、青くなったりしているのを見ながら。終いには視線を外された。  俺から目を離さないように距離を詰めた。 「──間違って……ねぇ」  あとにどんな言葉を続けるか、まだ固まっていないうちに口から零れてしまう。  七星の視線が再び俺をとらえる。 「でも、それは……ナナへのメッセージじゃないんだ……」  彼は「え?」と酷く動揺した顔をして、赤い薔薇の花束を俺の胸に押しつけてくる。 「──いっくん……お祝い受け取ってくれる……?」     (しまった、言い方間違えた。ナナが泣きそうな顔をしてる)  たぶん、七星は俺の言った言葉を勘違いしたに違いない。 (逃さねぇ)  俺は慌てて両手を、花束を抱えた七星の両手に重ねた。     「だって……男が花言葉になんて気づかない可能性のほうが高いだろ? ──だからそれは、伝えられなくても構わない、俺のナナへの気持ちなんだ」  こんな情けないことを言いたくはなかったが。もう全部言うしかなかった。  言いながら俺は花束を、七星の気持ち──本当に間違いじゃなければの話だが──を受け取った。 「えっと……じゃあ、やっぱり……」  また、可愛い顔になる。俺の胸は跳ね上がった。 (間違いじゃ、ないんだな?)  心の中を覗くように、その瞳を見詰める。  俺も自分の気持ちを曝け出す。  ここが一番大事なところ。俺が今日伝えようとしたことだ。 「間違ってない。ナナが俺のことを……なんて、思えなかったけど。今日は玉砕覚悟で伝えようと思った」 「……僕も玉砕覚悟で……もし、間違っちゃっても、いっくんなら、それでも友だちでいてくれるだろうって……そっちの可能性のが高いんじゃないかって……だっていっくん、僕のこと『親友』って……」   (同じことを考えてたのか。なんだそれ、可愛すぎるだろ)  嬉しすぎるのを誤魔化して俺は軽く笑った。 「『親友』って、それ、ナナが言ったんだろ?」 「あ……う……そうでした」 (それ以上可愛い顔するな。気持ちが抑えられなくなる) 「あの言葉は嬉しかったけど、辛かったな……やっぱそれ以上にはなれないのかって……でも、あの時ははっきり言える立場でもなかったし、玉砕したらそれこそ受験どころじゃないし」  どうにか冷静になる為にあの時の辛さを思い出す。 「いっくん、あのっ」   (まだ、何か言うつもりか。止められなくなるだろ)  目が何か言おうとする唇に吸い寄せられる。 (ナナがどの程度のことを考えてるのか、わからない。でも、俺は)    俺はささっと周囲に目を走らせた。  そして、七星の肩を掴んで抱き寄せる。 「ナナこそ……これ、間違いじゃないよな」 「間違いじゃないよっ僕いっくんのこと、ずっと──」    キスもそれ以上も何度も経験しているというのに。  俺の内には熱い想いが荒れ狂っているというのに。  そこに触れようと思うだけで、初めて経験するかのように全身が震える。  俺は片手に持った薔薇の花束で俺たちの顔を覆い隠した。 (──誰にも見せねぇ──)  触れたのは一瞬。それも唇の端。  それでも。  柔らかさと甘さを感じたような気がした──。  ♡おしまい♡  

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