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56 俺の番/翔の憂鬱

 これはどういう状況なんだ──  ベッドに寝ている俺の番、理玖。その横には見慣れた男の姿があった。  晴れて番になった愛しい人に会うために部屋を訪ねた。まだ一緒には住んでいないものの、合鍵は渡されていたから勿論自由に会いに来てもいいという暗黙の了解。まだ学生の俺と違って理玖は働いている。おまけに夜の仕事ときたから生活がすれ違うことが多い。だから会える時に会いたいと、こうして理玖の部屋を時折訪ねていた。  広くはないアパート。物をあまり持たないのか、いつも理玖の部屋は殺風景なほどすっきりと片付いている。彼にとって伊吹は特別な男だということはわかっていた。それでもこの目の前の光景を目にして、俺は黙っていられるほど大人でもなく、そのまま見過ごすことなんてできるわけがなかった。 「おい! 理玖!」 「……あ、翔……おはよ。あれ? 今日は早いね」  まだ昼前。今日は日曜日で街中にはもうすでに活動している人が溢れている明るい時間。でも夜の仕事をしている俺の恋人はまだ寝ていたっておかしくはない時間帯。大学が休みな俺がいつも通りこの部屋を訪ねたわけだが、結構な頻度でこの男がこの部屋にいることがどうしようもなく腹立たしかった。  だってそうだろ? 「起きろ! ほら、伊吹さんも!」 「ん……? あぁ、翔君か……」  俺の大事な恋人に抱えられるようにして一緒に眠っている伊吹を不愉快に思うのは当たり前だ。寝ぼけ眼で俺のことを認識しても、特段慌てるわけでもなくマイペースに身支度を始める伊吹に俺はイライラを隠せなかった。 「理玖はなんで! いっつも! 伊吹さんをベッドに入れるんだ?」 「え? あ……んん、抱き枕? 的な?」  ベッドに潜って顔だけ出している理玖は、眠たそうに顔を擦る。ちっとも悪びれた様子もない理玖とは逆に、身支度を終えた伊吹は申し訳なさそうな顔をして「そうだよな、ごめんな。つい」なんて苦笑いを浮かべ俺を見た。  理玖は俺の知り得ない苦労があった。それを今に至るまで家族のように支え寄り添ってきたのがこの目の前にいる伊吹だった。伊吹がいなかったら理玖は今この場にいなかったかもしれない。おそらく命の恩人と言っても過言ではない。  理玖も伊吹も互いに恋慕の情を抱いているわけではなく。それこそ「家族愛」のような関係なのだと思う。それは俺だってわかっているんだ。それでも俺が入り込めない固い結びつきのようなものにどうしようもなく嫉妬してしまう。 「今日は休みだからさ、一日ゆっくりしような」  やっと起き上がってきた理玖はそう言うと、ふらっとシャワーを浴びに行ってしまった。俺は理玖の「恋人」だという認識は持ってくれているはず。だって俺たちは先日正式に番ったばかり、いわば「新婚」のようなものなのだから。

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