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第47話 ジロウ

「ジロウ!男女グループで5人ね!あっちの奥だから。女の子たちは野菜多めがいいって!男の子はガッツリ肉!あーっ、前菜は俺が出すから、ジロウは肉の何か作って!チキンがいいかも!左のグループには、パスタお願い。ベシャメルソースがリクエスト!」 「おおいっ!ちょっと待て!今日は予約だけじゃなかったのかよっ」 「空いてるところに入れてるの!ほら、大丈夫だから!頑張ってジロウ!」 「YESssss…」 フィエロを再スタートさせて一年が経った。ジロウと武蔵のWシェフは話題にもなり、大繁盛。 また従業員やキッチンスタッフ達は、余裕ある勤務スタイルなので、ストレスなく働けている。 そしてリロンに約束した通り、バーシャミを復活させた。場所は以前と同じ所。ジロウはクミコから、店を買い取り直して再オープンさせている。 ついでに、上の2階、3階の住居もクミコから買い取り直し、リノベーションしてリロンと二人で住んでいた。 だから心置きなく大きな風呂に二人でゆっくりと入れているんだ。やっぱりここが二人には快適な場所だと再確認する。 以前は、キッチンなんてなかったが、今は小さなキッチンも付けてリノベーションしている。キッチンはリロンも使いたいという希望があったからだ。 ベッドルームが少々狭くなったが、キングサイズのベッドは置けているので、まぁいいだろう。 フィエロに勤務しない何日かは、バーシャミにリロンと二人で入る。それ以外の休みは二人でイチャイチャしたり、仕事の打ち合わせをしたりしていて忙しい。 なので、新しいバーシャミは複数のシェフで交代に使うスタイルで運営している。 フィエロのシェフである武蔵の日、その他スイーツを作るパスティッチェーレの日 など、日替わりで色んなシェフが入り、バーシャミを毎日オープンさせていた。 案外このスタイルが世間にウケて、多くの客がバーシャミに予約を入れてきている。 フィエロのシェフが、単価が安いバルを経営してると噂になっているようで、それも人気らしい。 こちらも改装したので以前のバーシャミより少し小さくなっているが、繁盛具合は以前と同じくらいだ。いや、それ以上かも。 今日はジロウがバーシャミのシェフ担当の日である。ウエイターは、もちろんリロンだ。よく知ってる客は、待ってましたとばかりに続々と予約を入れてきていた。 それと、相変わらずのリロンのオーダーである。数年前と変わらない。だけど、このオーダーがあるからフィエロのメニューも、ジロウには斬新な発想があると思っている。 やっぱり…俺の指針はリロンなんだ。 「ジロウ!次のオーダーいい?めっちゃ大盛りのパスタね!ソースはジロウに任せるから、よろしく」 相変わらず店の中では英語でオーダーを通している。 「大盛り?何でもいいのか?」 「蓉くん!蓉くんが、これから来るから」 忙しくドリンクを作りながらリロンは答えていた。蓉か…あの気持ちいいくらいの大食いの子か。チラッとフロアを見ると海斗の横顔と、岸谷の姿が見えた。後であのテーブルに顔を出しておこうと、ジロウは思った。 「ほらっ!ここのシェフはジロウだけでしょ!頑張ってよ」 「お、おう…ガンバリマス!」 出来上がったベシャメルソースのパスタと、それにフリッタータ。ジロウはそれを持ち、フロアに出てサーブする。 フロアの端でリロンが客からオーダーを取っている姿が見えた。笑顔で何か話している。きっとまた『任せて!』とかなんとか言ってるんだろうなと思った時、リロンが顔を上げたから目が合った。 ジロウは『ん?』と言うように片眉を上げてリロンに合図を送った。 リロンはジロウを見て、ニッコリ笑った後、プイッと顔を背けて笑っている。 誰にも気が付かれないけど、この二人の行為は付き合う前から続いている。フロアに二人でいると、どちらの視線も必ず相手の身体に纏わりつくから目が合うんだ。 リロンは知ってるのかな。 以前からこうやって見られていたこと。 プイッと顔を背けた後、少し恥ずかしそうにしている顔が、たまらなくジロウが好きだってこと。そこまで見ていることも。 キッチンに戻ったジロウにリロンがオーダーを通してきた。 「ジロウ!予算はひとりこれくらい。それで、ガッツリしたものとピザ、お願い!」 「ははは、OK!」 ほらな、やっぱり『任せて!』って言ってたんだと、ジロウは可笑しくなって笑ってしまった。 「それと…ジロウ、愛してる」 おおっ!っと、一瞬手が止まってしまった。リロンを見ると澄ました顔をしているが、耳が赤くなっている。 「Wow! I love you more!」 「ジロウ!声が大きい!」 キッチンからジロウの声が響いたのか、フロアの客がそれを聞き「フォーッ」と歓声を上げていた。 やっぱり人生は食事と愛だな。 end

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