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第18話
呼び出し音が聞こえる。
今日ここに来ること、そもそも俺が藍を尋ねるなんて藍は全く知らないから、もしかしたら不審な番号からの電話は出ないかもしれない。
そうしたら、どうしようか。
近くのホテルにでも宿泊して、作戦を――と考えていた時、電話口からやや遠い声が聞こえてきた。
「Hello?」
明らかに警戒している声音だが、それは紛れもなく藍の声だった。
「藍、俺だ、柾」
しばらく沈黙が流れる。
「……柾? 声が、少し違うようだけど」
「空港から電話しているんだ」
今しがた空港に到着したんだと伝えれば、藍が電話の向こう側で驚きと歓喜の叫びをあげた。
「柾? 本当に、柾なの?」
この騒ぎ方は、外国人と聞いてまさしく思い描くステレオタイプそのものだと思いながら、柾は到着した空港名を口にする。
「来てくれたんだ! もっと早く教えてくれれば良かったのに」
今から迎えに行くね、と電話は切れた。
皆が忙しく動き回る空港で、柾はキャリーケースを動かしていって、ロビーの椅子に腰かける。
藍のオフィスからこの空港までは、車で30分ほどかかると言った。
柾は空港の椅子の背もたれに身体を預け、行き交う人々を何気なく目で追っていたが、次第に疲労感を自覚して、深呼吸とともに瞼を下ろす。
久しぶりに飛行機に乗ったから、時差のせいもあって、大分身体が疲れている。
藍は、今頃どんな気持ちでここに向かってきているのだろう?
一か月前のあの問いかけの答えを、おまえは待っているだろう。
だが藍、悪いが俺はまだおまえの問いに答えられない。
だけど、自分の気持ちに少し正直になって、取ったことのない長期休暇を取得してまでここにきた。
触れてくるおまえの手がなぜ嫌じゃないのかを、知りたくなったんだ。
そして帰っていったおまえに、こうしてなぜ会いたくなったのかも――。
(終)
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