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第17話

 ――きみの答えを、聞かせて。 「俺の、答え」  あの秘密基地に行ってから1か月後、柾は藍の言葉を思い出していた。  彼が何に対する答えを求めていたのか、それは分かっていた。  無理に答えを出さずとも良いのだ。このまま曖昧なままにしたって――。  それでもきっと藍なら怒らないだろう。  昔と同じようにうやむやに関係を消滅させても、あの日本滞在中に幾度となく見せた寂しそうな微笑みを浮かべて、藍はやり過ごすのだろう。  そうやって、彼は馴染みない外国の生活と、転校先の小学校生活を始めたのだから。  上着の胸ポケットに入れた藍の名刺を取り出したとき、機内アナウンスが流れた。  “当機はまもなく着陸態勢に入ります――”  頭上のシートベルトのランプがポンと点いた。  シートベルトをつけ、飛行機の窓の日よけが開いているのを確認し、手もとの名刺に再び目を落とす。  裏面には、藍が書いたこの国での住所と携帯電話番号が書かれている。  大きな混乱はなく、無事渡航できて良かった。  柾はシートの背もたれに身体を預け、小さく息を吐いた。  柾が長期休暇を取るとの話は、勤務先の課の中で瞬く間に広がった。  休暇の申請を上司に出せば、 「おう、珍しいな」  としげしげと受け取られた。 「それにしても思い切ったな。一か月か。どこかに行くんだ」 「友人に会いに、海外へ行こうと思いまして」 「海外の友人に会いにかあ……青春だな、気をつけてな」  青春……。  入社以来こんなまとまった休暇を取るのは初めてだったから、嫌味の1つや2つでも言われるのかと思いきや、案外会社の反応は良くも悪くも淡泊だった。  それから一か月、急いで申請したパスポートを取りに行き、航空券の予約をし、海外の知識をガイドブックを読んで仕入れ、カタコトの外国語を覚えた。  ――自分の気持ちにもっと正直に――。  その言葉が、藍が日本を発ってからもずっと心にあった。  それは、藍のことを好きじゃないと、あるいは拒絶される可能性すらあるかもしれないのにか。   藍の問いに正直に答えるなら、自分の中ではっきりとした答えには、まだなっていない。  いや、これが答えだと言えるだけの材料がないのだ。  だから、藍のことを、もっと知りたいと思った。  あの秘密基地の中では知ることができなかった藍を。そして、この地で新しい生活を送るようになった藍を。  無事着陸した飛行機から降り、タラップを歩いて、空港の建物へと入る。  入国審査を終えて、空港のロビーで見つけた公衆電話の前に立ち、柾は名刺の裏の電話番号を押した。

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