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「コーヒー、飲むか」 「こーひー?」 「あぁ……そういうのあんだ。ドリンクバー……コーヒーは、あったけぇの。いい匂いで、黒い……まぁ苦ぇ。でも偉大。タナカのイチオシ、な」  一斉は説明が下手だった。  ほぼ個人の感想だ。抽象的な形容詞だらけ。名探偵が新手のなぞかけかと顎に手を当てそうな語彙の説明である。 「ふむ……お主にはドリンクバーという能力があり、コーヒーという苦くて温かい飲み物が作れると。そしてタナカとやらが愛する偉大なそれを己に振る舞いたいのか」  が、ジェゾの読解力は名探偵のそれだったようで、二人の会話は意外とうまくいった。  今度はシーツに乗らないよう、一斉は自分の手に先程と同じコーヒーが現れるようドリンクバーに念じる。 「っな……!」 「え……え。エスプレッソ。コーヒー」  直後、手元に感じる熱。  ツーミンの言っていた通り、問題なくショートカット作成だ。  一斉が湯気の立ち上るコーヒーカップを差し出すと、ジェゾは鋭い双眸を丸くして、コーヒーカップを凝視した。 「無手から物が現れた……空間系スキルか……? しかし独自空間に保有していたものなら湯気は立たぬであろう……特定の場所にある物や特定の物を召喚するスキル、ということか。空間を操りながら無から調理済みの飲食物なぞ早々生み出せん。攻撃魔術じゃあるまいし……カップに液体に温度に場所にその他もろもろ、全て一瞬で定めて発動するなど細やかすぎて気が狂おうからな……うむ。(おれ)は魔術に明るくない故に経験則でしかないが、概ね間違いあるまい」  ブツブツとなにやら難しく呟いて考察したのち、こっくり頷くジェゾ。  詳しいことは一斉にもわからない。  神に等しいワタシたち(・・・・・)にこういうボーナス能力が使えますと言われたのだから使えますなのだ。なんだっていいだろう。 「そうか。なんだろうと(おれ)にはわからぬが……まぁお主は己を謀ることなどせぬし、できぬ。己の子猫の贈り物だ、素直にいただこう」  一斉が安心安全美味な飲料だと無害をアピールすると、ジェゾは大きな手でカップを受け取り、クンクンとコーヒーを嗅いだ。  耳がピク、と動く。  香りは気に入ったらしい。一斉としても頷けるほどコーヒーはいい香りだ。  ジェゾは何度か息をふきかけて丁寧に冷ますと、静かに口をつけ、音も立てずグイッ、とカップの中身を飲み干す。  そして眉間に皺を寄せて黙り込み、カップを煽ったまま静止した。  一斉はじっと待つ。  それなりに長い沈黙だ。  しばらく置いて、ジェゾはそっとカップを下ろし、白い口元に付着した黒褐色の液体を大きな舌でベロリと舐めとる。 「…………」 「どう、だ? ジェゾ」 「…………苦い」 「…………そうか」  お気に召さなかったらしい。

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