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そういえばコーヒーは苦かった。
自分もあまり飲まなかったし、ブラックコーヒーを飲む兄貴分は普段から甘いものが苦手だった。
コーヒー自体は立仲の最高傑作なのだが、その苦味はシンプルにキツイ。
元の世界でもブラックコーヒーは好き嫌いが別れる代物である。二人目でこれでは、立仲のイチオシ布教は困難かもしれない。
エスプレッソの苦味は人を選び、白いジャガーは選ばれなかった。
喜んでくれることを期待した一斉は、ジェゾの渋面に眉を下げた。
鉄の表情筋が動く大ショックだ。
そんな一斉を見て、ジェゾはコーヒー味の舌でしょげた頬をベロリと舐めた。
「ん……」
「そう落ち込むな。己 が苦味をあまり好まぬだけだ。香りと風味はこの世界で初めて味わったもの。好ましく思うぞ」
「でも……うまいものが、やりてぇ」
ジェゾからカップを受け取り、一斉は切なげにジェゾには見えないドリンクバー画面を眺めて思いを馳せる。
自分にもっとコーヒーの知識があれば、上手にアレンジができたのに。
立仲の偉大なコーヒーを優しいジャガーに気に入ってもらいたい。
一斉はホワホワと考える。
例えば、甘くすればジェゾは好むのではなかろうか。
ファミリーレストランのコーヒーはザラザラの砂糖を入れると飲みやすい。ザラザラの砂糖を入れてみよう。
カフェオレとやらにするのは? しかしジェゾがいいと言ったコーヒーの風味は、ミルクを入れると減りそうだ。
なら生クリームを乗せよう。
クリームがたっぷり乗ったコーヒーをテレビで見たことがあった。
砂糖はコーヒーに入っているので、こちらは控えめにするといい気がする。これなら甘くてちゃんとコーヒー。
「ジェゾ」
「ん?」
「コーヒーで甘いと、うまいか」
「ふむ。風味はそのまま苦味を甘味で抑えられるなら、コーヒーというものを楽しめるので己は嬉しいが」
本人に確認を取り、ついでに新しく開放された付与を試してみる。
効果はひとまず[身体疲労の緩和]だ。自分を運んでくれたジェゾを労いたい。今付与できる効果はレベル2のささやかなものだが、ないよりいいだろう。
さっそく脳内にそれらしいコーヒーを思いうかべながらドリンクバーのボタンを押してみると、やはり簡単にカップが現れた。
一瞬目を丸くするジェゾだが、なにも言わなかった。慣れたようだ。
「これまた不思議な飲み物を作ったな」
「うまく、したんだよ」
今度のコーヒーはひと味違う。
ザラメ入りはもちろん、渦を巻いて雲のように浮かんだたっぷりの生クリームの上にはココアパウダーが散らされていた。
カップは大きめ。ソーサーにはティースプーンも乗っている。
作ってみたものの、一斉はテレビで見ただけでよく知らないコーヒーだ。
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