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≪おっ、ウインナーコーヒーは見た目だけでも夢があるねぇ。大人も子どもも男も女もみんな関係なく、ワクワクするよ≫  脳内で首を傾げていると、ウキウキボイスで立仲の知識が語りかけた。 「あぁ、なるほど」 「む……? 独り言か」  確かにワクワクする。温かくて柔らかそう。ウインナーコーヒーはジェゾにぴったりの素敵なものだ。 「ジェゾ。ワクワクだぜ。ウインナー、コーヒー」 「ふむ……これは甘雲(クリーム)だな」  ウインナーコーヒーを差し出すと、ジェゾはピクピクピクッ、と耳を大いに震わせて受け取った。  例によってクンクンとクリームの匂いを嗅ぎ、まずはそのままカップに口をつけて一口飲み込む。 「!」  途端、耳とヒゲが総毛立ち、大きな体が感動したように打ち震えた。  今度はお気に召したらしい。 ≪スプーンでコーヒー味のクリームをすくって食べるのもオススメだよ≫ 「スプーンで、コーヒー。すくって食べる。うまいみてぇだな」 「ふむ……。……ふむふむ」 ≪最後はかき混ぜて、クリームと混ざりあったコーヒーを飲み干すんだ。んん〜……底に溜まったザラメがこれまたたまらないねぇ≫ 「最後。混ぜて飲むともっとうめぇ」 「ムッ……ゥアァオ」  ジェゾは一斉が立仲の知識を口にするたびそれを実行し、ウインナーコーヒーを余すところなく堪能した。  よほど美味しかったのだろう。  夢中になってカップに向き合いながら、獣らしい鳴き声をあげたほどだ。 「あぁ、もう終いか。口惜しいな。小さきカップよ」  機嫌よくうねっていた太くたくましい尾が寂しげに揺れる。  ペロペロと名残を舐めとる程度には気に入ってもらえると、作り出した一斉もなんだか照れくさいが嬉しい。 「うまかった。見たことも聞いたこともなかったコーヒーだが、味を変えると楽しみ方が増える。これはお主の貴重な力だ」 「ん。まぁ、タナカの力だ」 「よいものだ。ただ……(おれ)としては、大きな問題が一つ、な」 「大きな問題……?」  恐る恐ると首を傾げると、名残まで味わったジェゾが、空のカップを差し出しながら渋い顔で唸る。 「……量が少ないぞ」  ベロォリと長い舌で口の周りを舐める肉食獣に、一斉は「次はもっと大きなカップでいつでも作ってやるよ」と約束した。 [ウインナーコーヒー]  濃いめのコーヒーにザラメを入れ、生クリームを乗せたもの。お好みでココアパウダーやシナモンを振りかけるとうまい。  ウイーン風という意味だが、ウイーンにはない。ジェゾのお気に入り。

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