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 黒ローブ的にあまりよろしくない。  せっかく説明したのに失望されてしまった異世界一日目を思うと、ドリンクバーは他人の役に立つ能力ではなかったのだろう。  一斉は素敵と思う。  立仲のコーヒーを布教できる素晴らしい能力じゃないか。  しかし他人にとっては、ただ一斉の考えつく珍妙なドリンクがいつでもどこでも取り出せるだけ。  召喚獣は主の代わりに戦う。  なのにドリンクバーは戦闘力皆無。一斉自身も見掛け倒しで強いと言ってもファンタジー生物には勝てない。今後可能なら修行を積んでこの世界基準でも強くなる予定はある。  だが今は期待外れのザコ召喚獣だ。  能力の正体がバレると、黒ローブと同じように皇帝も失望して一斉を野に捨ててしまうかもしれない。  皇帝に失望されるとジェゾが困り、自分も困る。  出かける時に便利ではあるのだ。  無料の自販機程度には。……個人的にはなかなかオトクな気がするのだが? 「…………陛下」 「なんじゃい」 「飲み物、好きなのなんだ」 「好む飲み物? 酒じゃな! 特にエールを好んでおるが、ちと複雑で甘すぎる故に毎日飲むとなれば老体には重くての。じゃがやめられん。暖かくなってきた近頃は、こう、喉がスッとするような冷えたエールを一気にだなぁ……!」  直球で好みをリサーチすると、皇帝は無邪気に笑ってアレコレ語った。  よし、酒はそこそこわかるぞ。  兄貴分のお使い経験が役に立つ。  世界の翻訳機能でエールがビールだとわかった一斉は、ドリンクバーの画面を開き、頭の中にビールを思い浮かべた。  毎日気軽に楽しめそうなビールか。  なら、スッキリ感でお馴染みのスーパーでドライなアレにしてみよう。  追加効果は節約する。今日はもう三回ドリンクバーを使っているし、レベル2じゃさほどアピールポイントにならなさそうだ。  完成を固めてボタンを押すと、瞬きする間に一斉の手元へビールが現れた。 「っ? ほう、エールじゃな」  皇帝はほんの一瞬不思議そうに目を丸めたが、すぐに笑顔を浮かべた。  一国の主ともなると肝が据わっている。キンキンに冷えて汗をかいているグラスを差し出すと、物怖じせずに手に取った。 「ふむ……」  汗をかくジョッキに、ビール。  見るからにキンキンだ。  黄金色の海には細やかな気泡が立ち上り、ジョッキの縁ギリギリを今にも溢れそうに浮かぶキメ細やかな白雲がシュワシュワと賑やかに音を立てている。  ゴクリと皇帝の喉が鳴る。  まさに垂涎のコントラストだろう。  酒好きにはたまらない光景なのだが、一斉はこの見た目とこの性格で紛うことなき未成年である。特にそそらない。  ややあって、皇帝は毒味をさせることもなくグッ! と一息にジョッキを煽った。 「!!」  ゴクッ、と上下する喉仏。  そしてそのままゴクゴクゴクゴク、とジョッキごと飲み尽くさん勢いで飲み干されていくビール。  そんなに喉が渇いていたのか? ≪う、うぅ〜ん……現代の法律じゃあ喫茶店ではお酒の提供は許されてないんだけど、ここは異世界だもんな〜……≫  喉に優しそうな付与をしておけばよかったとやや後悔する一斉の脳内に、ホワホワホワーンと立仲の声が響く。 ≪個人で飲むなら問題はないし……うん! 人と空気と飲み物で人生の羽休めを、が喫茶店のいいところだものね。コーヒーもお酒も同じさ!≫ ≪ただ酒場と住み分けるためにも、夜はお店には出さないようにしないかい?≫ 「あぁ。タナカの言う通りに、するぜ」  立仲の提案に、にべもなく頷く。  一斉にとってあの日の自分を救おうとしてくれた恩人でありつぐない相手の立仲は、グウゼンと同じ神にも等しい存在だ。メインはコーヒーなどソフトドリンクで、酒類を出すなら昼間に少しとしよう。 「〜〜っはぁ! イッサイ! お主を捨てた協会の連中は世界一の節穴じゃな!」 「っあぉ、お?」  一斉がそう心に決めていると、ビールを飲み干した皇帝が飲み干すと同時に叫び、嬉々としてガバッ! と一斉を抱きしめた。

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