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 キッチンの後片付けを終えたあと、一斉たちは研究室として借りている一階の小部屋に向かった。 「……スピー……スヨスヨ……」 「『…………』」  ら、なにかいた。  無言で顔を見合せ、揃って首を傾げる。  アイコンタクトの内訳は「知り合いか」「他人の家で爆睡するような知り合いはおらんで」だ。  不審者らしいので、ひとまず手近にあったキノコ型スタンドライトを握り、抜き足差し足で近づいてみた。  いやだってカチコミだろう?  なら犯人を捕獲してどこの組の差し金か吐かせるものだ。シマを荒らされると基本こうする。兄貴たちはする。  スムーズに武器を手にした一斉に物言いたげなツーミンだが、安心してくれ。殴る蹴るは本職だ。 「……んぐぅ……」  テーブルに突っ伏して眠る客人は、見覚えのない男だった。  黄色混じりの群青の髪と血色の悪い濃灰の肌。一応人型だ。しかし妙に全身湿っている気がする。  平均より少し高めでヒョロリと細身のバレエダンサーを思わせる体に、閉じてはいるがつぶらな瞳が素朴系なやや中性的な小顔。  タイトな衣装がよく似合う。  武器は持っていないようだが、ベルトの長い小型リュックを背負っていた。  部屋の中を注意深く観察すると、換気用の窓が開いている。  まさかあそこから入り込んだのか?  平均と言っても百七十半ばはあるし、子どもがやっと入れる大きさだ。近所でビックリ人間コンテストでもあったのかもしれない。  ビックリ男の手には、空っぽのグラスがひとつ握られていた。  口元にはクリームがついている。  一斉はそっと身を離し、ツーミンと顔を見合せてコクンと頷いた。 「あれ、だな……」 『せやな。あれ……研究用に睡眠効果マックス付与で作ったクリームソーダ、勝手に飲みよったんや』  間違いない。  では犯人を捕縛しよう。  一斉は戸棚の中からケダラケバイソン毛の丈夫な縄を取り出し、相変わらずスヨスヨと眠りっぱなしの男に再びのそのそ近づいた。落とし前だ。  そうして気配を殺し男に縄をかけようとした直後。 「──ッ、はッ!?」 「あ」『起きよった!』  ガバッ! と男が顔を上げてしまい、一斉は素早くネコのように一歩後ろに飛び退いて、出口を背に距離をとった。  おしい。あと少しだったのに。  ……実は捕まえたらジェゾが褒めてくれるかもと思っていたので、一斉は若干、いや割と悔しい。顔には出ないが。  代わりに全力で悔しがったツーミンは一斉の中へピョンと引っ込む。  それと同時にキョロキョロと辺りを見回したあと、キノコ型スタンドライトを手に入口を塞ぐ一斉を指さし「あ"ーッ!」と雄叫びを上げる男。 「テメェ! ボク様になにしやがったのん!? 罠にかけるなんて酷ェじゃねぇかコノヤロウ!」 「…………」  男はなにかと渋滞していた。

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