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「チクショウあのヨーカイエナジー的ドリンクめ……! あれのせいでボク様の計画がおじゃんだぜねん! せっかく白獣が留守にしたのを見計らってヘンテコリンな奴隷がキッチンにいる間に忍び込んだってのにあんなモン仕掛けられたら飲むだろがい! ンで案の定毒は卑怯だろがい! おお!?」
「…………」
「そらァ頻繁に家空ける上に警備もつけない孤高の特権階級ハンター〝白禍〟のたんまり貯め込んだお宝ちょいと拝借してやるつもりだったけど、現状まだなんもしてねェんだぜ!? 逆に! 逆に攻撃を受けたねん! 被害者じゃねェのん! 冤罪だわ見逃せ!」
一人称がボク様。
二人称がテメェ。
語尾がのんで、圧がすごい。
どちらかというと穏やかそうな見た目に反して口調が荒く態度が悪い上に、性格がアレで、自分を棚に上げながら家主(同居人だが)にイチャモンをつける計画的不法侵入者。
ちなみに声は渋めのバリトンボイスである。ジェゾと張るオジサマ系だ。
情報量が多過ぎて着地点が迷子な男は、どこを目指しているのかも何属性なのかもわからないカオスな男であった。
「ってさっきから黙りやがって聞いてんのかテメェ!」
「……あぁ、……ツーミン」
「誰だツーミン!?」
ツーミンはツーミンである。
人生の相棒であり、この状況を打破してくれるかもしれないスキルを持った唯一の存在だが、脳内ですら音沙汰がないところを見るにツッコミ拒否らしい。
ということはソロクエストか。
本場仕込みのツッコミニストが関わりたくないような濃ゆいキャラに、口下手無口無愛想の自分で太刀打ちできる気がしないのだが。まぁやるしかねんだけども。
「……なぁ、アンタ」
「あ? ボク様?」
「……。俺は」
「テメェが?」
「……。のん?」
「のん。ねん。なーん。ンだよやっと喋ったかと思えば人様の話し方にケチつけやがって、オリゾン地方じゃよくある語尾だろん?」
「や、知んねぇ。別にケチねぇよ……性格、つか、ノリ疲れるけど」
「失礼なやつだなんッ」
黙るとキレられたのでとりあえず話しかけてみると、男はフン、とふんぞり返って一斉を睨んだ。
意外と普通に会話できたぞ。
どうやら逃げるにしても、この距離で武器を持ったデカイ男相手じゃ難しいと判断したようだ。強面でよかった。
「テメェは壊滅的に話ベタだな……言いたいことがわかんねェのん……」
「アンタ、名前は」
「脈絡もねェし。名乗ったら見逃してくれんのん? 流石にこんだけ痕跡残しちゃ白獣から逃げ切る自信ねェのん。テメェから口添えしてくれよん」
「あぁ……いいぜ。聞かれなきゃ言わねぇよ、俺」
「聞かれても言うなん。はぁ……ボク様はギュムトゥス族の義流 怪盗、ネバル・マンボルト。テメェは?」
男──ネバルは「約束は守るタイプだぜん」と念を押して腕を組み、クイ、と顎で誘った。
「佐転 一斉」
「サテン・イッサイ? 変な癖ある名前だなん。まぁいいや。──じゃあ約束守れよん、サテン」
「!」
その言葉と同時にぴょんっと跳ねたネバルは、引き止める暇もなくぴょんぴょんとテーブルや棚の上を飛び跳ねて、あっと言う間に換気窓へ辿り着く。
窓枠に手をかけたネバルの灰の肌がヌルリと溶けて見える。
自分も十分脈絡がないじゃないか。
「あ、あとあの謎ドリンクもたんまり用意しとけなん。毒なしでのん!」
「は」
「──入れたらボク様、バチバチっと殺っちまうかも知んねェからのん?」
そうしてニカ! と爽やかに笑ったネバルは、軟体生物のようにグニャリと体を曲げて窓の外にねじ込み、ニュルリと逃げおおせてしまった。
突然現れて突然消えていく神出鬼没の迷惑クセつよ義流怪盗。
『……属性過多すぎん……?』
「……喋り疲れた」
去り際スマイルの口元には、八重歯がキラリと光っていた。
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