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第三生 現地住民舐めたらアカン

 佐転 一斉。十九歳。  元・ヤクザもどきの異世界転移者であり、現・放し飼いの召喚獣兼喫茶[つぐない]のマスターである。  そんな彼の愛する者は、心の恩人こと立仲 昭三と飼い主ことジェッゾ・ヤガー・ヤガー。いわゆるジェゾ。  立仲のために街角で開いた喫茶店を異世界人に親しんでもらい、コーヒーを初めとする喫茶店文化を広めたい。  そして依存レベルの片想いをするジェゾにべったり懐き、気に入られたい。  一斉の望みは概ねこの二つだ。  他は〝昼寝したい〟やら〝勉強から逃げたい〟やら〝料理は気乗りしない〟やら〝神殿に行きたい〟やら、取るに足らないただのぼやきである。  そして一斉は自分を、頑固でワガママで迷惑なやつだと思っていた。  立仲とジェゾが絶対の一斉は、自分の意思でこの二人を中心に物事を組み立て尽くすことを望みとしているだけで、含めて自分の欲望に忠実に生きている。  たった二つの望みのため、本人なりに努力し、日々試行錯誤しているのだ。  当然手なんか抜いていない。  勉強はサボっても営業はサボらないし、ダンジョン下層部だろうがウインナーコーヒーは必ず提供する。  軽食もといオシャレカフェプレートも何れは作れる予定である。  ……で。  ここまでいろいろ言い訳を並べてなにが言いたいのかと言うと、だ。 「イッサイ、今日の来客は?」 「…………半分人」 「半分人?」 「一人来たけど……俺見て逃げた」 「おらぬのだな」 「………………おう」  開店から二週間。  誰一人にもコーヒーを飲んでもらえていないが、自分はちゃんと一生懸命働いているんだ! ということを神と恩人にアピールしたいわけである。  脳内で天に祈り釈明しつつ、ベッドに横たわるジェゾに抱き寄せられながら、一斉はモソリと頷いた。  ──喫茶つぐないは、一斉が想像していたより繁盛しなかった。  ジェゾは「初めはそんなものだぞ」と涼しい顔をしているが、店を開けば勝手に客がくると思っていたアホな一斉の出鼻はフニャフニャとしおれている。  立地も店の雰囲気も悪くない。  ダンジョンの入口に近いので良くはないが、おかげで一応ちらほら客は来るのだ。悪くはない。  まぁ当然客層は主にハンターだが、喫茶店はクエスト帰りで疲れた彼らのニーズに合うようで、興味を持ってドアベルを鳴らされること幾数回。  で、その半分が一斉の顔と佇まいを見た直後無言でドアをそっ閉じする。  残りの半分は一斉のメニュー説明を理解できずに困惑して逃げていく。  結果、布教率ゼロパーセント。  まさか布教以前に飲んでもらうまでに至らないとは思わなかった。  どうしろって言うんだ? こんな序盤からツーミンに泣きつこうだって?  バカ言え、つぐないのつの字も一人でこなせないとは看板に偽りありじゃないか。熱い公約違反だ。炎上したって文句は言えまい。自分だけでやり遂げたかった。  そんなわけで不貞腐れ半分。  反省半分。  僅かばかりのションボリ少々。  それを餃子の皮のような大きなやる気で包み込んだ一斉は、明日こそはとめげずに意気込むものの、今夜も黙ってジェゾの胸毛に埋もれているわけであった。  ちなみに毎夜のことである。  毎日しくじっているのだから仕方がない。しくじらなくても同じだが。  ダンジョンに行かない日の夜はいつでも巨大ベッドで猫のように丸くなって眠るジェゾは、夜毎一斉を片腕で抱き寄せしこたま舐めまくったあと、当然のように腹毛に埋めて寝かしつけている。  先日一斉はジェゾが恋愛的に好きだと自覚したばかりだというのに、配慮のない扱いだ。  実はわかっているのだろうか?  いいや、わかっていない。……と、思う。……わかっていて〝だからなんだ〟と思っているだけかもしれない。  ジェゾがド好みでゲイの一斉がジェゾに惚れるなんて簡単なことだが、ジェゾが一斉を恋愛感情で愛するハードルがどの程度かは価値観もろとも不明である。可能性があるのかすら怪しい。  そりゃあカワイイやらなんやら言ってくれたが、それがどういう意図かはわかりゃしない。なんせニャオガ族の文化なんて知りもしないわけで。  ジェゾのことだ。  気づいていても「お主が己を好き? そうか。で、なぜ己が行動を変えねばならん」と考え平然と過ごすだろう。  その通りなのだが、気に入ってくれているのかわかりにくくて困る。  喫茶店も、恋も、やはりそう単純にうまくいくものではないらしい。  まぁ、どちらも諦めないが。 「ジェゾ……」 「ん? っと」  一斉はたっぷりフカフカの胸毛に顔を埋めたままジェゾを呼び、その毛皮をカプリと甘噛みしてみせた。  のんびりと微睡んでいたジェゾの顔が胸元の一斉を覗き込む。  そんなジェゾを自然と上目遣いになりつつ、一斉は黒目の小さい瞳で伺う。

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