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77※微

「……ふ…っ……ジェゾ……」  酷く悩ましげに目を閉じた一斉が、フルフルとまつ毛を震わせ、眉間にシワを寄せて素っ気なく顔を逸らす。  毛むくじゃらのジェゾの前足。  弾力のある肉球に尻の谷間や陰嚢のあたりを圧迫されると、気持ちいい。  スライム液を纏った毛皮はペンキのハケみたいで擦れるとゾクゾクするし、そんな指先が乳首を捏ねると、無反応じゃいられないほど甘ったるく痺れる。 「……っ、び……」  人間にしては大柄な一斉のふた周りも大きなジェゾの手は、指一本を取ってもそう思えないほど太く感じるだろう。  人間にしては発育がよくとも、まだ未成熟な子どものカラダ。  快感に絆されるにつれ、困惑から戸惑いが薄れ、一斉はただ困り果てる。 「……ってる……から……」  困り果てて、絞り出す。  牙を剥くように奥歯を噛み締めて、柔らかなクッションに額を押しつける。 「指……入ってる……っから……」  顰めた眉がひしゃげて震えた。  スライム液を塗りたくるうちに深々と滑り込んだジェゾの指。  それはもう二本が付け根までぐっぽりと嵌り、窮屈な肉筒の中をグリュ、グリュ、と掻き混ぜているのだ。 「知っておる」  低く唸って咎めたつもりが、軽く一蹴するジェゾに、一斉は「ぁッ……」と短く喘いで、もどかしげに戦慄いた。 「マ……マズイって……マズイ……っぁ…く、ふ……ぃけね、だろ……」  指二本とは思えない圧迫感。不特定多数に抱かれた経験が人より多い一斉だからこそ、感覚が狂って戸惑う。  よく知る指ではなく、もっと太い肉を挿れられている気分である。  それほど拡がっているし強く当たっている。裏側から圧し潰れる性感帯が血管を膨張させて、透明な汁がトロトロと溢れて止まらない。  ヌメりを帯びて引っ掻くように拡張しながら出入りする指に中のしこりがコリコリと突かれるたび、解された肉穴がキュッ、キュッ、と締まって悦ぶ。 「は…っ……ぉ、…っあ、あ……」  低いが掠れて、裏返りかける声。  感じているのだ。手遅れだろう。  それでも我慢しようとしているのか、途方に暮れて泣き出しそうな世間知らずのように、拷問されて息も絶え絶えに自白する裏切り者のように、密やかに喘いでカラダの疼きを押しとどめたがる。まるで悪いことを隠そうとするかのように。 「ぁ、……ぁっ、……ジェゾ、……っ」  一斉はそういう声で鳴く。  決して大きくはない。むしろ押し殺した音で、嗜虐心や征服欲を擽る震えと甘えた色気を纏って鳴く。 「(おれ)の指は、嫌か?」 「違っ、嫌じゃねぇ……っけど俺、性欲強ぇから……欲しくなっちまう……でも、っぁ、アンタは……」 「愛いよ。お主は、無性にそそる男だ」 「っ……ラリッちまいそうだぜ……」  恥じ入る感情をジェゾに可愛がられると喜び、興奮し、酔い狂いそうだと逸らした顔を鍛えた両腕で隠す。  隠すが、視線でこちらを伺う。  死にたいような、苦しいような、恋しいような、求めるような、甘えるような、期待で壊れそうな荒々しい瞳。 「イッサイ。お主と交尾がしたい」  そういう一斉の鳴き方が、ジェゾにはたまらなくかわいくて、たまらなく煽られて、たまらなく、喰らいたかった。 「……っ、ぉ、……俺」  ドクンッ、と胸が高鳴る。  一斉は目を見開き、声を震わせた。  シたい時はいつでもそう誘えと、教えたのはジェゾだ。単純明快だと。だが誘ってみると、若者が一時の感情で貞操を投げ売るものじゃないと軽く躱す。  勘違いされたと思ったが、あとで考えるとあれは誤魔化されたのだ。  その気になって、やめた。  目敏く賢いジェゾは、相手が開示するまで自分から踏み込まない。けれど本当はわかっているから、相手が胸の内を明かしても驚かず簡単に受け止める。  なのにあの日は一斉の誘いを蹴った。自ら線引きした。  それがわかったから一斉は不貞腐れた。自分の旺盛な性欲を恥じ、同じ気持ちでないことを再確認した。ジェゾは一斉に興奮しないのだ、と。 「あぁ、お主と。いけないか?」  しかし今夜のジェゾは、くくく、と悪戯に笑って緩やかに顔を近づけてくる。  そして一斉の反応を観察しながら、産毛の擽ったい唇でチュ、とキスをする。  キスをして、唇を舐める。  またキスをする。笑う。舐める。  その間ずっと、路地裏上がりの強面を火が出そうなほど赤くした一斉の目を真っ直ぐに見つめて誘っているのだ。  こんなもん、いけないわけがないだろう。 「抱くぞ。もう逃がさぬよ」  一斉の目の細め方が夜の娼婦を思わせる蠱惑的な毒気を孕むならば、ジェゾのそれは、凶暴で、野性的な狩人だった。

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