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それからは、早かった。
その気になった子猫が歓喜に震える固い手でシャツとベストを脱ぎ捨てると、白いジャガーは若くハリのある褐色の肌や慎ましい胸の尖りを、ザラついた舌で味わう。
拡げやすいよううつ伏せになり、大胆に足を開いて尻を上げる一斉。
右腕や首筋から右肩に広がる大きな火傷痕は、皮膚が薄くて感度がいい。
ピアス穴。目尻に二つ、唇に一つ。眉尻の傷。耳の裏からソリコミ、項、刈り上げた毛の縁、背骨の窪み。
背筋に舌を添わせて下がり、靱やかな腰のラインを弄んで、硬く締まった小尻を揉みほぐし、割れ目を抉る。
「ん……ンッ……ァ……」
クチュ、チュプ、といじらしく誘う窄まりを指で延々と掻き混ぜながら、ジェゾは鍛えられたカラダにあちこち散る様々な傷跡へ、ガリ、と甘い歯型を重ねて印をつけた。
途端、ビクンッ……とよがる。
一斉がよがると、逞しく健康的な肉体がうねり、吊られて肩口から背の半面、背骨や背筋を覆うように描かれた鳳凰の片翼がぐにゃりと艶めかしく波打った。
ジェゾは衝動のまま一斉の背に噛みつき、グルル、と機嫌良く喉を鳴らす。
一斉が呪いと称した刺青を、ジェゾはなぜか好み、気に入っているのだ。
だからいつも一斉を弄び、絶頂に追い込むにつれ悶える裸体が薄赤く火照り、墨が淫猥に喘ぐ様をゴキゲンに堪能する。
見たこともない柄と風情。
肉体の凹凸で歪んだ刺青は美しい。
手首から肩、胸元、背中。
緻密に彩られた浅黒い肌は興奮に火照り、滲む汗で艶めき、快楽に踊る。
雄々しく、鍛えられたカラダの野生は確かに屈強さを感じるのに、未だ十代らしい未成熟な骨組みがその肉を纏うアンバランス。
不安定な精神。挙動。その全てが美味そうで、たまらなく食欲が湧く。
「ヒィ……っ…ン、ク」
喘ぎ声を殺す癖がある。
そのくせ感じやすい。無口でもよく鳴く。冷酷でドライな淡白男に見えるが、無害で義理堅く性欲旺盛だ。
そしていじらしく甘ったれた懐き方をするにしては、肉食系で欲深いケダモノ。
「ぁ……あ…っ……また、イク……」
巨体の獣人とのセックスを躊躇せず、他人に堂々と裸を曝け出す歳の割に肝の据わったこの男は、いちいち色っぽかった。
喧嘩慣れした筋肉質で男らしい体格。
人を寄せつけない影のある顔つき、抑揚の薄い低めの声、口調、仕草。
どれを取っても愛らしさや妖艶さとは無縁に見えるし、概ねその通りだ。
ただふとした瞬間、見る者に〝自分は今誘惑されているのか〟と錯覚させる程度には刹那毒を持つ色気がある。
そういう男を軽々と子猫扱いし、やすやすと喰らいたがる獣が、一斉の内側を荒波のような快楽で丁寧に暴いていくのだ。
一斉は皿の上のステーキと同じ。
どうしようもない。ソースの一滴まで食い散らかされるのを待つばかり。
早く、早く──そんなふうに身も心も結合を急かすが、下手に動いてせっかく向いた気が萎えることを考えると尚更、なりふり構わず強請る勇気を持てずに辛抱強く期待する。
「は……っも、終わん…ねぇ……っ」
そうして我慢ならなくなった一斉が声を上げた頃、外はもうすっかり暗かった。
夕暮れから始めて何時間経ったのやら。
わからないが、確実に一時間以上は経っているだろう。その間前戯しかされていない。
いつの間にか中を犯す指が三本に増えていたようで、グパ、と中で指を開かれると、たっぷり注がれた白スライム液がほぐれた穴からゴプッ、ドロ……と溢れる。
ジェゾの手技により嫌というほど手間暇をかけて執拗く慣らされた一斉の秘部は、とろけるように柔らかく、人間サイズなら多少巨根でも十二分に呑み込める具合に緩んでいた。
白獣様はかなりしつこい質 なのだ。
意地が悪いとも言う。
媚肉をほぐしながら前立腺を扱いてイジめてやると何度でもドライで達する一斉が可愛くて、舐め、噛みながら前をあやすと精を滴らせて粗相する一斉が可愛くて、まぁとにかく一斉が可愛くてねちっこく拡張したのだから、一斉が根をあげるのも仕方ないだろう。
「そう急くな。お主はここを使い慣れているようだが……己には慣れておらん」
「ぁ……っひ……また、……っ」
いかな我慢強くとも流石に焦れたらしい一斉のお伺いに微かな笑みを浮かべたジェゾは、獲物を引き裂く三本の指を、柔らかい粘膜に傷をつけないようクルクルと動かした。
強すぎるジェゾにとって、一斉はその全てがただの子猫 にすぎない。
獣人全てのモノが化け物サイズというわけではないが、自分のモノは特に大きい。
一斉の中は、よく慣れ、よく拡がり、よく締まり、体躯も人間族にしては頑丈だが、この剛直を受け入れるにはまだ少し狭いだろう。
だから飽きない程度に刺激を与えつつ、時には前も後ろもイかせてやって、万が一にも壊れないよう甘く解 してやっているだけ。
「あぉ……っぉ、あっ……」
「ここは気持ちが良いだろう? 己のモノは指三本より太いが、長くもある。お主の好きなここは、指のほうが突き易いかもしれぬな」
「ィ…っイク……そんなにしたら、また……」
コリ、コリ、と爪を引っ込めた野太いジェゾの指先に弄られすぎてぷっくり膨れたしこりを扱かれた一斉は、掻き抱いた大きなクッションにしがみついて僅かに尻を振った。
毛むくじゃらの指にスライム液を絡めて掻き混ぜられると、密集した毛皮がブラシのように直腸の粘膜を擦ってむず痒いのだ。
たくさんの絵筆で手の届かない敏感な襞を撫でられるような瘙痒感は、耐え難い。
しかも同時に三本の太い鉤爪が、ヒクッ…ヒクッ…、と蠢動する内部を掻き分け、毛皮の摩擦で充血した肉壁をあちこちマッサージするのだから、そりゃあ何度だって高みに昇る。
(イク、イク、イク、イク……)
頭の中が達することでいっぱいだ。
若さゆえだろうか。足の間でパンパンに張り詰めた勃起がトロォ……と粘り気の強い先走りを垂らし、快感に呻くカラダが身じろぐ。
「ッあ、……ッ、……〜〜〜〜ッ」
奥深くまで押し込まれた三本の太い指が腹側の腸壁をゴリュッ、と強く抉り掻いた直後──もう何度目かの限界を迎えた一斉は、ブルブルブル……ッ、と震え上がった。
パタタ、と白濁液が飛び散る。
赤黒い陰茎の先から濃厚な精が迸り、シーツを汚して萎えていく。快楽に溺れた上半身がシーツに沈み込み、痺れる足で辛うじて支える尻がガクガクと揺れて浮き上がる。
「ぁ……は、っ……ぉ……」
ビクビクビクッ……、と細やかに痙攣し、全身が幸悦によがり戦慄く裸体。
ギュッ、ギュゥ、と断続的に指を食い締めつつ小刻みにうねり、心地よく収斂する内部。
はッ…はッ…、と短く呼吸し、微かに震えて唸りながら快楽に浸るとろけた表情。
誰がどう見てもイッただろう。
そう、またイッた。何度目だ?
中イキと射精、合わせると確か……知らない。こんな状態で足し算なんかできるものか。三回、四回、あといくつかだろう。
記憶も算数も曖昧な一斉は、シーツの上で釣られた瀕死の魚のように肘を合わせた両腕で頭を抱えた。
そしてぐだつきながら「ふ……っ…ふ……」となにかを耐えるように悩ましげに唸ると、余韻の網の中でにわかに藻掻き、波打つ筋肉の痙攣をむず痒がって、やましく振り向く。
「ん、っ……もぉ…しつけぇって……」
そうして囁かで甘ったるい絶頂をじっくり感じ終えると、淫惑な空気を纏う肉感的な体をドロリと脱力させて、また疼くのだ。
そんなふうに視線を寄越されたジェゾは、イッたばかりの一斉が落ち着くまで待ってやる裏で〝此奴どうしてくれようか〟と雄々しい尾をユラリユラリと妖しげに揺らした。
意識的に誘う時より、無意識に欲しがる時のほうが、えげつないほど上手く誑かす。
それがジェゾの可愛い子猫だ。
まぁもう他を誘わせる気はないので、特に問題はない。むしろ唆って好都合。
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