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「長ぇよ、まだ足りねぇ……?」
「ふっ……たかが数時間だろう? 本来なら日数と段階を踏んで少しずつ拡張していく過程を、数時間に圧縮しているのだ。例えお主に経験があろうと、己はなるべくお主を壊さずに繋げたい。お望みなら吐くまで捏ねるぞ」
「っ……俺、壊れてもいいよ……んなじっくりされんの、あんまねぇぜ。まぁ、痛いの好きだから……裂けても構わねぇし……さ」
「気が乗らんね。……それとも、飽きたか? 幾度か出して満足したなら、その気が失せてもしょうがあるまいが」
「うっ、失せるわけない。俺は……ジェゾに抱かれてぇから……何回出しても、ジェゾにハメられたらイクから……」
「なら問題ないな」
ジェゾは一斉の腰を抱き寄せると、刺青の咲いた肩甲骨の凹凸をベロリと舐めあげて「よいこだ」と褒めた。
それだけで一斉の体温が上がる。
ジェゾが恋しすぎて、気が変になりそうだ。
ドサッ、と仰向けにベッドに転がされたかと思うと、行き場のない両腕を頭の上でひとつに纏められて、ジェゾに片手で封じられる。
それから両足を大きく開かされ、丹念に慣らされて弛んだアナルに、手のひらの黒い肉球を押しつけるように再び指が挿入された。
「ひ、っ……ジェゾっ……」
「構わぬだろう? もう少し付き合え」
「っ……ぉ……俺の穴、とっくにガバガバだぜ……これ以上シたらアンタ、気持ちよくねえかも……したら、っン……困るだろ……」
「くく、そうか……?」
「そう、ゆるい、だから……っぁは……」
背を丸めて、悲鳴のように喘ぐ。
ハァ、ハァ、と呼吸を乱して目を据わらせ、発情しきった表情で哀願する一斉。
明確に反対せずされるがままに見えても、一斉はギラギラと飢えた目をして、今にも食らいつきそうなほど欲しがっている。
「己は今でも十分心地よいが、そうだな。締まりが悪いと流石に……困らんな」
「ッヒ、ァ……ッ」
「もっと緩めてやろう」
なのに、ジェゾは薄く笑って、グリュ、と腫れぼったく膨れたしこりを指先で潰した。
獲物を追い詰めるジェゾの悪い癖だ。
子猫があべこべで面白かった。抱かれ慣れているのに可愛がられ慣れていなくて、ついからかってしまう。ジェゾは悪い男である。
欲しがられると徹底的に焦らしたくなるし、察しが良くとも知らんぷりする。
いつか一斉が聞きたがったジェゾの好みのタイプは──虐めがいのある相手。
可愛がる時に特に意地悪くなる。
別に泣かせたいわけでも傷つけたいわけでもなく、庇護欲と包容力は十分にある。
ただその上で構いたい。遊びたい。巨体の肉食獣が気ままに愛でるご機嫌な愛し方。
お気に入りだからこそ鞠のように前足で転がしてザラついた舌で舐めあやし、丸めた体に抱き込んで喉を鳴らす。可愛い、可愛い、よいこだ、喰らいたい。骨まで、舐って。
ジェゾはそれらに歯止めがきかずなんら悪いとも思っていないが、あの日一斉にそれを教えるとあのまま己の欲もこの身に刻んでしまう気がして、無意識にセーブした。一線とやらのためだ。
ジェゾの肉体と精神で思う様じゃれつくとたいてい壊れてしまう。まぁ仕方ない。大人になっておこう。
そう思って常に冷静に生きる癖がついたところ、一斉はジェゾの全てを知りたがったのだ。
であればそれこそ仕方ない。もう教え込む。一斉にだけは全て教え込む。欲望の全ての矛先にする。
さぁ受け止めてみろ、と。
これも意地悪なのだろう。
「鳴け、イッサイ。お主は愛いぞ。可愛い男よ。可愛い、可愛い、喰らいたい。さぁ……鳴いて、感じて、蕩 けて、開 け。指では届かぬ深くまで拡げてみよ。そうすれば己は壊れぬように壊さぬように気遣い、されど一滴残らずお主に捧ぐ。だから早く緩め。そして想像しろ。己のモノでお主の腹を満たすのだと。欲しがって、欲しがって、肉体の狭間の薄皮一枚をもどかしがれ。謙虚なお主に、己 流の求め方を教えてやろう。わかるか? お主のように行儀よく己に遠慮する余裕などないほど、己はお主を年甲斐もなく欲しがっておるのだ。なぁイッサイ……獣は存外寂しがり屋で、執念深く、意地が悪い……ふ、己とて、ここで早く繋がりたいのだぞ……?」
「ン…っ……ンン、……っ」
「もっとも、己がまだダメだと言えば、お主は今夜もまた苦もなく聞き分けるのだろうが」
フゥ、とピアス穴の空いた耳に息を吹きかけて、低く渋い落ち着いた声がヒクヒクと戦慄く一斉に語りかける。
一斉はビクッ……と跳ねた。
それから一瞬弱ったあと、なにか文句を言いかけて、すぐに怖気付く。
ほんの半日前より見違えて感情的で大胆に欲望をさらけ出したジェゾの声と言葉は、他人の顔色に敏感な一斉にとって、わざとらしいほどわかりやすい。
誘わせたいのだ。
一斉の口から、ハッキリと。
クチュ、ヌチュ、と今もなおしつこいほど解される赤剥けた口はヒクヒクと欲しがり、巨根に対して緩み足りなくとも無惨に壊れはしないだろう。
拡げて、掻き混ぜて、射精するたびにキツく締まる括約筋を容赦なくまた拡げて。
本当に腸壁が溶けているのでは、と錯覚するほど繰り返しこねられた内部の具合は、きっと十分悪くない。
ではなぜ足りないと焦らすのかというと、単純に、言質が欲しいから。
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